KnightsofOdessa

雪雲のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

雪雲(2023年製作の映画)
3.5
[中国、"不在"を抱えた都市への鎮魂歌] 70点

2023年ベルリン映画祭エンカウンターズ部門選出作品。2021年のカンヌ映画祭で短編部門に出品した同名作品を長編化した一作。主人公ハンは10年間の服役の後、海南省にある故郷の島に帰ってくる。最初に訪れたのは古風な理髪店。そこには若い女性店主スーホンが娘ヤオと二人で暮らしていた。どうやらスーホンはハンの古い恋人らしく、ヤオも彼の娘かもしれない。二人の距離感は合わせ鏡によって視覚化される。双方の実体がどこにいるかも分からないのだ。だが、二人の関係は意外にも早く復活する。困り顔のハンの前にスーホンは真っ赤なドレスを着て現れ、ファムファタールのように自分を追いかけるように促す。10年間の不在はスーホンとの関係性以外でも様々な変化を感じさせる。その大きな要因は都市開発だ。建設が進む高層ビル群が様々な形で画面上に登場し、その威圧的な風貌で主人公たちを見下ろしてくる。しかし一方で、海南省は急速な都市開発に失敗し、ゴーストタウンと化しているという面もある(その点においても"不在"が意味を持っている)。スーホンは都市部のマンションに移り住んで、娘をより良い学校に行かせたいという夢があり、彼女がハンとよりを戻したのもその夢のためという見方も出来るわけだが、結局マンションは開発業者の夜逃げによって廃墟となり、夢も消えてしまった。そういう人がどれくらいいただろうか。後半30分は不在を抱えたマンション、或いは都市そのものの鎮魂歌のような情景へと様変わりする。そこで生活する彼らは、あり得たかもしれない未来の亡霊のようだ。全体的に雰囲気重視で要領を得ない気もするが(特にハンの経歴は別に何も絡んでこない)、中盤まではこの後半部分への助走みたいな感じなので仕方ないか。
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