青山

リンダはチキンがたべたい!の青山のレビュー・感想・評価

4.0

舞台はフランスのとある郊外。母ポレットの勘違いで叱られたリンダは、間違いを詫びる母に、かつて一緒に暮らしていた父のレシピのチキン料理が食べたい!と懇願。しかし街はストライキでお店はどこも休業中!チキンをめぐる母娘のクレイジーなドタバタ劇は、察官や運転手、団地の仲間たちを巻き込み大騒動に。ふたりは思い出の料理を食べることができるのか......。


映画作家のキアラ・マルタと、夫でアニメーション作家のセバスチャン・ローデンバックの共同監督・脚本によるフランスのアニメーション映画。

近所のシネコンでたまたまチラシを見て、「なんかミニシアターとかでやってそうな雰囲気なのにシネコンでやるんだ〜」と思って気になっていた作品ですが、めっちゃ良かったです。
本当になぜかたまたま近所のシネコンでやってるだけで上映館も少なそうなので上映してくれてありがとうMOVIX......。

さて本作ですが、まずはジャケ写をご覧いただくと分かる通り、輪郭線がぼやっとしてて、カラフルで、キャラクターは1人1色でベタ塗りされているという、不思議でキュートでオシャレな絵と映像そのものがとても魅力的。
かなり抽象度が高いというか、リアルとは言い難い絵柄なんですけど、キャラクターたちの仕草や表情の豊かさ、そして背景の生活感のおかげでとても生々しい存在感がありました。
また、ところどころでミュージカルになってイメージ映像みたいなのが流れるところもアニメならではの映像のワンダーがあって楽しかったし、なにより夜のシーンでクレヨンのスクラッチみたいなタッチの絵になるところが美しかった......。昼中のハイテンションさに対して夜のあのどことなく寂しい感じがとても良い......。

て感じで映像観てるだけで至福みたいな作品なんですが、ストーリーもだいぶ好きです。
いわゆるオフビートな笑いというのか、めちゃくちゃ笑かしてくる感じじゃなくてところどころで淡々とユーモアがある感じというか......あ、ユーモアじゃなくてエスプリっすかね。
冒頭、主人公リンダが赤ちゃんの頃の父親の死の場面からはじまる本作は、リンダの母ポレットを第2の主人公にして、父親(夫)の不在によってギクシャクしてしまっている母娘が「チキンが食べたい!」というワガママから絆を取り戻していく物語になっています。
作中でも「あの母にしてこの子ありだわよさ」とか言われてるように、チキンが食べたいとワガママ言うリンダの母ポレットも相当なワガママさんで、やってることだいぶめちゃくちゃなんですよね。正直身近にいたらちょっと迷惑かも......とは思っちゃうけど、そんでも娘のために何をしてでもチキンを作ろうとする彼女のエネルギッシュさにだんだん惹かれていって応援したくなっちゃうんですよね。リンダも言ってることめちゃくちゃなんだけど子供ってのはこんくらい真っ直ぐでワガママじゃないとね!って感じで微笑ましく可愛かったです。

また、本作はそんな母娘のパーソナルな物語であると同時に、2人の冒険がやがて叔母(妹)や警官や団地のご近所さんやその他色んな知らない人たちを巻き込んでいく広がりをも見せます。傍迷惑な騒動でありながらも、そうやって他人を巻き込んでいくことで人と人との繋がりが生まれていく様がとても暖かく可笑しく描かれています。
そして、父親の死からはじまった物語が「食事」という「生」を象徴する行為によってみんなを繋げるという大団円に向かっていくのが優しくて、泣いてないけどじんわり泣きそうになりました。

そして、母娘のパーソナルな物語、そしてそれが身近な色んな人たちと接続していく物語でもあると同時に、さらに本作には社会的なテーマ性も込められています。
そもそもリンダがチキンを食べたいと言い出したのにチキンが作れなくて大騒動になっていくのは、その日街がストライキのためにお店がどこもやってないから。そして舞台はシングルマザーや子沢山や独居老人など裕福とは言えない人々の住む団地。
団地の人たちの多くはストライキのデモに参加している一方で、参加していない人もいる.。それは暮らしに余裕がありそうな人だったり、運送業とか警察官だったりして、子供たちはよく分からないままにストで学校が休みになるのを喜んでいる......そんな社会の縮図のような団地をリアルに描いた背景があるからこそ、チキンをめぐる騒動自体はナンセンスなものでもバカバカしく感じずに観られるのが巧いと思います。

そんでも最後には祝祭的なムードとともに過去に整理をつけて未来へ進んでいく晴れやかさがあって、色々と複雑な隠し味はあるけどシンプルに食べて美味しい😋みたいな映画で最高でした。
パンフ買ったら作中のパプリカチキンのレシピが載ってたので作りました。美味しかった。
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