奔放という言葉が似合うアニメーションがすばらしい。躍動的な線が描き出す世界はイキイキとしている。
映画が始まった瞬間から、多幸感にやられ、なんかニコニコしている自分に気づいた。
で……問題はストーリー。
「笑って泣ける珠玉のアニメ」というキャッチをどこかで見たけど、意外にも「泣け」なかった。
タイトルそのままの衝動に突き動かされて、モラルやルールを気にせずに、猛進するリンダ。
彼女に振り回されてばかりいる母も、いつしかパプリカチキンに取り憑かれ、その行動はリンダ以上にヒートアップする。
彼女たちのアナーキズムに拒否反応を示すのって、すごく日本的。
問題はそこじゃない。
リンダの父は亡くなっている。リンダには父の記憶がない。リンダにとって父は、母が父からプレゼントされたリングに象徴される。
実は母にとっても同様で、夫との日々を思い出すことはなく、夫がくれた指輪も喪失感を掻き立てるだけ。
つまり、死者であるリンダの父は、残された2人の元にはいない。死者と生者は完全に隔たれている。生者は死者の存在を身近に感じることはなく、死者は生者を見守ってはいない。
リンダに先導された、子供たちのアナーキーな行動の数々は、なぜか、死者の世界への扉を開く。
それでも、リンダが父と対話することはない。ただ、父が「存在していた」ことを思い出すだけ。
生者と死者が決して交わることのない、この世界観は実にシビアだ。死者は生者がその存在を忘れてしまうと霧消してしまうわけだ。
死んだ父ちゃんも泣くに泣けないよ、それじゃ。これも、また日本的な反応かもしれんけど。
そんなこんなで「記憶を描きたかった」という監督のコメントが腑に落ちなかった。「記憶の不在」は描かれているけど。
子供向けに製作されたらしいけど、テーマや内容は大人向け。ご都合主義な展開の逃げ道として「子供向け」って言ってるんじゃないかという点も引っかかった。