KnightsofOdessa

耳をかたむけてのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

耳をかたむけて(2023年製作の映画)
4.5
["普通"の人間は主人公になれるのか] 90点

大傑作。リュウ・ジャイン長編三作目。前作『Oxhide II』から14年ぶりの新作である本作品は、脚本家になる夢に破れて弔文ライターとなった男の日常を描いている。依頼者やその近い人からのインタビューで構成する以上、そこからあぶれてしまった人の視点から見た故人の人生は抜け落ちてしまうわけで、実際に主人公もそういった"あぶれた視点"を持つ人々から突撃されている。妹から見ると、亡くなった長兄は暴力的で、インタビュイーだった次兄を殴っていた、しかし、次兄はそのおかげで目が覚めたと言っている。人間は決して一面的ではないのだ。映画はそんな小さな出来事をゆったりと少しずつ重ね、主人公の悩みと向き合っていく。久々に再会した大学時代の恩師は、脚本と比べて弔文を下に見ている主人公を優しく諭す。ネットで知り合った声優志望の男の死を知って北京に出てきた女性の挿話も良い。遠慮も恐れもなく主人公の家に来て、勝手に水飲んで爆睡している彼女の存在によって、主人公は動き出す勇気を得る。日常生活のおかしみを描く上で彼女の魅力的な行動の数々はやはり欠かせない。また、会社の引っ越し直前にCEOを亡くした会社の挿話も良い。普通の人は"主人公"になれないのか?という主人公の苦悩に、"(傍から見ると彼は特別な人かもしれないが)長く知り合っていると普通の人間だ"と返させている。自分を一番長く知っているのは自分であり、だから他人と比べて自分が普通に見えるのは普通のことなのだ。そして、そんな"普通"の人間である自分も、別の人間が見れば"特別な人"なのかもしれない。そう言われた気がした。
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