春とヒコーキ土岡哲朗

異人たちの春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

異人たち(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

人は自分の精神の中を生きている。


寂しく生きる男アダムが、同じマンションに住むハリーと出会い、2人は一緒に過ごすようになる。
しかし、アダムには秘密があった。ときおり実家に戻り、思い出なのか幽霊なのか、亡き両親と会っているのだった。


ファンタジーではないけどリアルじゃない空間。

映画全体を通して、人の気配が極端にない。大きなマンションには2人しかいない。そんな現実味の薄い景色が、社会がなくて精神だけがある、深夜の気分のような空間を作っている。

アダムは実家に帰っては死んだ両親と過ごす。
人間は、自分の脳みそを持って生きている以上、現実世界と精神世界を行き来する。だから、自分の精神世界も人間にとって実在している世界。
アダムが現実の中に自分の心象風景を引きずっているような世界観に、そう感じた。

また、一度挟まる「駅~電車内」のシーンだけは他人がたくさんいて、そこだけ唯一現実的な光景。そのシーンの現実っぽさを見ているときは、「現実だけが現実。現実以外は全部ウソでしかない」と言い切られているようで怖かった。


先に進めないアダム。
アダムは自分の寂しさにがんじがらめになり、さらに寂しくなっている。死だ両親の幽霊と会うことに固執する。
生きれば生きるほど、「過去」が増える。別れた人や場所が増える。後悔も増えるし、戻りたい時間も増える。

孤独に気づいてくれる人がいて、人の孤独に気づいてあげられれば。
両親との別れを受け入れて進もうとしたアダムがハリーに会いに行くと、ハリーの死体があった。そこにやってくるハリー。ハリーはとっくに死んでいて、アダムはずっとハリーの幽霊と会っていたのだった。
ハリーは、冒頭でアダムの部屋に行き入室を断られたあと、自室に戻り死んでいた。映画は、アダムに孤独を気づいてもらえたハリーが救われたことで終わる。アダムも、孤独な人を見つけてあげたことで彼自信が孤独じゃなくなった。それでもハリーはもうこの世にはいないのが切ない。
手遅れになったあとでしかしっかり相手を思ってあげられないのは寂しいが、手遅れになってもその人を理解することで、遺された側は救われることができる。