本好きなおじぃ

アメリカン・フィクションの本好きなおじぃのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.1
大学で文学の教壇に立つ小説家のモンク。
アメリカ黒人文学の侮辱的な表現を出して学生を傷つけてしまう。
ほかの教員からも少し休むように言われ、地元でブックフェスに参加することにする。自分のブースよりも黒人作家のシンタラの方が人気だということに愕然とする。なぜなら彼女の小説は黒人の姿をありありと書いた、大衆ウケのする小説だった。
一方、この休みを機会に家族と過ごそうとするモンク。
離婚したばかりの妹のリサから「本は人生を変える」と言われたモンクは書店での自分の小説の置かれ方に疑問を持つ。そこから、家族の状況が目まぐるしく変わっていく。母親が認知症、リサは病気で死去、ゲイの兄は金を出してくれない――――
モンクはそんな現実に嫌気が差しながらも、だったらばリアリティのある黒人小説を書こう、と決心する。その小説を出版社に見せたところ出版や映画の話が始まってしまい、戸惑うモンクだったが・・・



文学についてこだわりや熱い想いがあるモンクが、出版業界に一矢報いたいと決意して書いた小説が好評を博してしまい、戸惑うところから、お金が必要なためにそれを受けざるを得ない状況に追い込まれる様が、とにかく面白い。
面白い、というか極めて人間的。この点については黒人も白人も変わりないだろう。
しかし、黒人の小説を評価するのは、映画の中では白人。
別に黒人も否定しているわけではないが、黒人のありありとした姿を見せたからといって出版社や映画プロデューサーが飛びつく。それは、白人が思う黒人の姿がその本に表れているからだ。しかし、モンクはそこになんとか抗おうとする。それが面白い。

もう少し面白さを深堀したい。
モンクの姿が滑稽だからだろうか。いや、それよりも、モンクを通して見る、文学や出版を消費する我々の姿がこの映画に現れているから、かもしれないな、と思った。
人間は自分の知っていることしか語れない。だからこそ、自分の知っているジャンルがよく現れる「読みたいもの」が目の前にあると評価が高まるのかもしれない。
その点では、このアメリカン・フィクションは、アメリカでの真実は語っていない、フィクションを描いているという見方はできると思う。私たちが見たいものを通して、私たちの知らない世界を見せている。
その点で秀逸、単調で面白みが少なそうな印象はあるのに、アカデミー賞候補にも選ばれている理由として、そう解題したい。
見た後にじわじわこみ上げてくる面白さは、今までの映画には無かったと思う。何度も見てしまうのが不思議だ。