たく

アメリカン・フィクションのたくのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
3.8
売れない作家が偽名で出した低俗本が予期せぬ人気を博する話で、黒人を題材にした話はステレオタイプ的に描く方が白人に受けるというのが強烈な皮肉になってた。自分のプライドが安易な商業路線に向かうことを許さないというのが、ちょっと「ラ・ラ・ランド」のセブを連想。そして作品全体に対するある仕掛けがなされているのがタイトルを表してるのも上手かった。ジェフリー・ライトは主演作の「バスキア」は観てないけど、最近だと「アステロイド・シティ」や「ザ・バッドマン」での渋い脇役が印象的。本作は日本未公開だけど、第96回アカデミー賞で作品賞を含め5部門にノミネートされてると知って驚き。

売れない作家のモンクが、ひさびさに実家に戻ったタイミングで母親を世話してた妹が急死してしまい、アルツハイマーを発症した母親の介護を引き受けざるを得なくなる。ゲイの兄が全く役立たずなのが、まあアルアルだね。母親を介護施設に入居させるにしても高額な費用がかかるんだけど、自作小説は売れず、かといって世間で評判の黒人をステレオタイプに描いた作品は書きたくないというジレンマに陥ったところで、半ばやけくそで偽名で書き上げた黒人モノの小説が出版社に受けて高額で売れるという皮肉。話がとんとん拍子に進んで映画化の話まで出てきて、やっぱりプライドを捨てられないモンクが著書のタイトルをNGワードに変更するのがかえって世間に受けるというギャグ演出に笑った。

モンクが権威ある文学賞の審査員に選ばれて、審査の対象作品に偽名の自作が選ばれちゃうのがまた笑える。作品が独り歩きしてしまい、自業自得とはいえどうあがいても逃げられないっていうのは創作世界では良くあること。この小説を賞賛する審査員が全員白人で、一人だけ黒人の審査員が「世間に迎合している」と本質を見抜くのが、白人と黒人の断絶を象徴してた。最終的に白人票多数につき賞を受賞したモンクの作品の表彰式で、まさかの仕掛けに驚き。モンクとしては、幕切れを曖昧にして観るものに委ねようとしたかったんだけど、「白人」である監督のゴリ推しで、結局は安直で低俗な結末が採用されるのが皮肉なオチになってた。
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