たく

白い足のたくのレビュー・感想・評価

白い足(1949年製作の映画)
3.7
孤独に暮らす城主が住む港町を舞台に、一人の女をめぐる愛憎劇が繰り広げられるジャン・グレミヨン監督1949年作品。高貴と世俗が入り混じる複雑な人間心理に、一筋縄ではいかない人としての業が描かれて、観終わった後に何ともいえない余韻が残る。役者では誰も知ってる人がいないと思ったけど、フェルナン・ルドゥーは昔に観た「赤い手のグッピー」に出演してた。ファム・ファタール的存在のオデットを演じたシュジー・ドレールを始めとして、本作には飛びぬけた美男美女が誰一人として登場しないのがリアル。

フランスの小さな港町で、宿の主人であるジャックが姪と称するオデットを連れてくる。彼女が実はジャックの愛人で、宿に到着早々にいちゃつき始める冒頭。この地にひっそりと佇む城にはたった一人孤独に暮らす貴族出身のケリアデックがいて、宿を通りがかるたびに子どもたちから「白い足」とからかわれる。これは彼が足にいつも白いゲートルを身に着けてるからで、おそらく彼の魂の純粋さを象徴しており、ラストにも繋がる伏線になってた感じ。彼のことをたった一人慕ってる宿の使用人のミミは不器量なせむし(ミミがそう自称してる)で、妖艶で低俗なオデットと対比される純朴なキャラになってた。

オデットに一目惚れしたモリスがケリアデックの異母兄弟で、ケリアデックに城を追い出されたことで彼に対して恨みを持ってる。この二人の長年に亘る因縁がオデットの登場によって顕在化し、情欲に惑わされる人間の醜さを浮き彫りにする怖い展開。序盤でケリアデックが自分をからかう少年の腕を強くつかむシーンは、普段高貴にふるまってる彼が内に暴力性を秘めてることを暗示してて、終盤での恐ろしい行動につながる。ここはちょっと「獣人」のジャン・ギャバンを思い出した。部屋の盾飾りに刻まれた「汚れるよりも死を」という言葉を体現すべく死に向かう彼を、献身的な愛で現世に引き留めるのがミミの存在で、人を救うのは真実の愛だという幕切れにジーンと来た。
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