たく

嫉妬のたくのレビュー・感想・評価

嫉妬(1953年製作の映画)
3.7
愛する男女の前に立ちはだかる階級の違いという障壁に苦悩する侯爵を描く、ピエトロ・ジェルミ1953年作品。ここ最近何本か観た「職業人としての自立と愛情との間で葛藤する強い女性」とは打って変わって従順な女性が登場するのが、いかにも古いしきたりに縛られた貴族階級とそれに手が届かない貧しい庶民の構図で、男の心の弱さがシンプルな筋書きの中に刻印されてた。アグリッピーナを演じたマリサ・ベリがとにかく美しく、他の作品も観てみたいと思ったけど目ぼしい出演作がないようで残念。

田舎町の結婚式で、妻となるアグリッピーナが誓いの言葉をためらう冒頭にいきなり不穏な空気が漂う。ここからいかにも陽気で幸せそうな夫のロッコが何者かに銃で撃たれて亡くなり、ネリという男が犯人として30年の懲役刑を言い渡される。この様子を見守る侯爵のアントニオがそわそわ落ち着かない様子で、ついに教会を訪れて神父に自分が犯人だと告解する。このあたりはまるでヒッチコックの「私は告白する」(偶然にも同じ1953年作品)みたいだけど、同作で描かれた「犯人を知りつつ世に明かすことができない神父の苦悩」とはならず、逆にアントニオに自白を強く迫る姿に神父としての使命感が滲む。

アントニオの告解で3年前のアグリッピーナとの馴れ初めが描かれて、こんな美しい女性に惹かれない男はいないというくらいアグリッピーナがとにかく魅力的。彼女が果てしなく従順な女性で、もはや奴隷といえるくらいに自己主張をしないのが当時の階級の違いを如実に反映する(「あなたの名前を呼べたなら」を思い出す)。アントニオが貧しい身分の彼女との許されない愛を周囲から咎められ、抗い切れなくなったところでついに彼女との愛を諦め、使用人のロッコに夫の座を譲るのは良くある図式。そこできっぱり身を引けば良いものを、シェイクスピアのオセローのような嫉妬心からアグリッピーナとロッコの裏切りにまで想像を膨らませてしまうのが人の心のやっかいなところ。彼がネリの冤罪を晴らす機会を失ってもなお自死することさえできない往生際の悪さが醜く、精神を病んだ彼がついに息を引き取るラストは、同じピエトロ・ジェルミ監督の「鉄道員」と似たような構図でありながら全く異なる幕切れだった。
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