たく

殺人カメラのたくのレビュー・感想・評価

殺人カメラ(1952年製作の映画)
3.7
そのカメラで写真を複製すると被写体の人物が死んでしまうという不思議な現象を利用し、善良な男が悪人退治にのめり込んでいくコメディ仕立ての寓話的な作品。ネオレアリスモで世界的に認知されたロベルト・ロッセリーニ監督が新しいスタイルを模索していた頃の作品で、こんな軽妙なコメディも撮れるんだというのが新鮮だった。全編に亘って登場人物たちが早口でまくしたてるシーンが出てきて、セリフと口が合ってないという古いイタリア映画ならではの特徴がいつも以上に気になった。

神の手によって話の舞台となるセットがお膳立てされていく導入部分にまず惹きつけられて、本作が寓話的なファンタジーであることが示される。イタリアの小さな漁村に土地を買い付けにやってきたアメリカ人一行が、目の前に突然現れた老人を車で轢いてしまったと思ったらどこにも姿が見えず、この老人が村の写真屋を営むチェレスティーノの前に現れ、商売道具のカメラに不思議な能力を授ける。このカメラで複製した写真に写った人が亡くなってしまうというのがデスノートみたいで、善人のチェレスティーノが持ち前の正義感を発揮してカメラの能力を悪人退治に使っていく様子がコメディタッチで描かれる。

貧しい村人に遺産を譲渡するという志の高い老婆の遺言を破棄して彼女の遺産を横取りしようとする男たちや、その老婆自身も実際は遺言と違って財産を独り占めしようとしてたり、墓地をアメリカ人に売り渡した市長などなど、チェレスティーノの粛清対象を挙げれば切りがなく、彼が正義感に駆られて次々と殺人にのめり込んでいく狂気が怖い。何事も行き過ぎてしまっては本末転倒だよという教訓話で、てっきり神だと思ってた冒頭の老人が実は悪魔だったというお茶目な展開から、最後はすべて丸く収まってチャンチャンという締めくくりのさっぱり感が良かった。
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