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クラユカバのパングロスのレビュー・感想・評価

クラユカバ(2023年製作の映画)
4.0
◎亜炭パンクな昭和レトロフューチャー探偵物語

寡聞にして、塚原重義というアニメ作家を初めて知った。
1981年生まれ、後厄を無事過ごされた頃といったご年配か。

本作、結論から言うと、『帝都物語』(荒俣宏の小説は1985年、林海象監督の映画は1988年)や、『ドグラ・マグラ』(夢野久作の小説は1985年、松本俊夫の映画は1988年)を偏愛する小生のような同好の士はもちろん、「昭和レトロ」という言葉や『哀れなるものたち』のスチームパンクな世界観に惹かれた御仁は漏れなく必見、待望のアニメ映画だ。
ただし、本作単独ではなく、必ず『クラメルカガリ』とセットで鑑賞すること、どうかこれだけはお約束いただきたい。

【以下ネタバレ注意⚠️】





1910年代までのイギリス、最新テクノロジーとして君臨していた鋼鉄と蒸気機関がそのまま未来的に発展していたらと空想するのが「スチームパンク」なら、木造機械と木炭蒸気機関が支配する本作の世界観は「木炭パンク」だと喝破されていたコメントに接した。
言い得て妙である。

ただ、『クラユカバ』の世界では、亜炭(石炭化度が低い石炭)が採掘され、それによって富を得た者たちが支配層を形成している模様なので、微修正して、「亜炭パンク」としたら如何だろうか。

とにかく、その「亜炭パンク」な珍妙機械類をはじめ、昭和レトロな世界観作り込みの精度と密度がともに高く、実在感をたっぷりと味わえる。

さらに二次元、三次元的な映像面だけでなく、灰田勝彦のヒット曲「燦めく星座」(1940年)や小唄勝太郎の「浮名ざんげ」(1936年)が聴こえて来たりと聴覚面の演出にも抜かりがない。

そして、何より、この世界観の昭和レトロとしての確かさを倍加させているのが、主人公の探偵荘太郎の声に神田伯山を、さらに活動弁士の声に正真正銘の本職坂本頼光を起用したことだ。

伯山師匠、上手いのだ。そして、見事にハマっている。

坂本頼光氏、さすがの本職弁士、名調子である。

チャラン・ポ・ランタンによる主題歌『内緒の唄』も、新作なのに、しっかりレトロ感があって素晴らしい。

ストーリーの方は、序盤で終わった感が強く、たくさんのキャラを出しながら使いきれていない恨みも残った。
例えば、「クダ」(管狐?)というクリーチャーが何度か姿を現すが、何もしないままだ。 

正直、一話完結としての起承転結的な分かりやすさでは、同時公開の『クラメルカガリ』の方に軍配があがる。

しかし、2作を通しで観て、世界観の作り込みの見事さは明らかに本作が「本編」だとの思いを新たにした。

続編が今から待たれる。

《参考》
塚原重義 / 弥栄堂
20 本の動画
塚原重義のアニメーション【弥栄堂】
https://m.youtube.com/@Iyasakado/featured
*うまく直接リンクできないようなので、YouTube で検索してみてください。
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