KnightsofOdessa

人間の境界のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
3.0
[ポーランドとベラルーシの国境森林帯にて] 60点

2023年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。アグニェシュカ・ホランド長編25作目。本作品はベラルーシとポーランドの間にある"緑の国境(Green Border)"と呼ばれる湿地森林地帯(世界遺産に登録されたビャウォヴィエジャの森なのかは謎)を舞台にしたオムニバス映画である。視点人物となるのは国境を超えて親族のいるスウェーデンを目指すシリア人一家、ポーランドの国境警備隊、難民たちに正規の亡命申請をさせようとする活動家、国境付近に暮らしている一般女性である。シリア人一家はベラルーシ側から森に入ってポーランドに入国するが、すぐにポーランドの国境警備隊に捕まってベラルーシ側に追い返され、他の難民たちと合流した先でベラルーシの国境警備隊がポーランド側に押し返し…という押し付け合いに巻き込まれてしまう。活動家たちは亡命申請書と委任状を難民たちに書いてもらってそれを提出することで彼らをポーランドに留め置こうとするが、国境警備隊は全く聞き入れずに彼らを再びベラルーシ側へと押し返す。国境警備隊による虐待的な対応は、妊婦を有刺鉄線の上に放り投げたり、死体をベラルーシ側に投げたり、直接的に描かれており、ホランドの怒りを感じる。彼ら中東やアフリカからの難民は非人間的な扱いを受け続けるのに対して、ウクライナからの難民はすぐに200万人を受け入れたという皮肉も興味深い。のは良いんだが、途中から国境付近に暮らしている一般女性ジュリアが初めて森を通ってきた難民に出会って、彼らを救う活動に参加するという挿話にすり替わっていく。映画全体から放たれる無力感への一つの回答として、"観客"を登場させたような感じか。個々の物語は問題提起として優れているし、エピソード単位では興味深い部分も多い(難民たちを救おうとしながらもルールの中で戦うかルールを破ってでも助けるかで喧嘩する活動家姉妹のシーンとか特に良い)のだが、わざわざそれらを有機的に接合したり、言い訳のように思慮深い国境警備兵を登場させたりとノイズも多く、散漫な印象を受けた。難民にも兵士の妻にも妊婦が登場するが、彼女たちもかなり記号的に扱われている。というか、最初に活動家のパートがあって、それだと難民の存在があまりにも記号的すぎるから挿話の比重を増やしたんじゃないかという歪な感じはする。流石にそれよりは断然マシだが…
KnightsofOdessa

KnightsofOdessa