くまちゃん

悪は存在しないのくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

荘厳で雄大で華麗。自然のありのままを映しながらも幻想的で魅惑的な世界がそこに広がっている。劇映画と記録映画の違いはなんなのか。そこに明確な差は無いのかもしれないし差別化する必要も無いのかもしれない。不必要なものを削いでいった結果それぞれの境界は曖昧になる。
極めて静かで長閑。それなのに圧倒的な熱量がスクリーン越しに伝わってくる。これこそが濱口竜介が映画に宿した自然の恵み、生命の力。

「ドライブ・マイ・カー」よりさらに洗練され言葉少なに命そのものが雄弁に語りかけてくる。そして何より106分という上映時間が良心的で臀部にも膀胱にも優しい。しかし自然はそれほど友好的ではない。時には残酷に、あるいは無慈悲に、またしては不条理に牙を剥く。山間を切り拓き木々を伐採し野原を耕し地上を支配した気になっている愚かな人間など自然の暴走の前ではただただなす術もなく平伏するしかない。
ここ水挽町に支配者はいない。動植物へ敬意を払い、長年培ってきたお互いの距離感を維持し調和が保たれている。共存共栄こそが安寧に生活を送れる唯一の方法である。人間は地上の支配を達成できていない。寛大なる自然の一部に住処を提供して頂いているだけなのだ。それだけは忘れてはならない。
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