ひるるく

悪は存在しないのひるるくのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.3
長野県の水挽町で自然との共存を大切に暮らす巧と娘の花と近隣住民の元へ都内の芸能事務所がコロナ補助金目当てのグランピング建設計画を持ちかけ徐々に波紋が広がって行く....

冒頭からタイトルバックの青と赤、特徴的なアングルに長回し、横方向ドリーショットからのマジックな瞬間にはジャンプカットの名手ゴダール、真正面の切り返しに小津へのオマージュを感じました、幻想的な"言葉少ない"自然の美しさ静謐さと脅威を実験的な音楽、環境音、カメラワーク、編集で語るアート世界に惹き込まれました。

そこから一転して現実的な人間の"言葉を尽くした"説明会やコンサルとのリモート会議、車内、うどん屋での会話劇は緊張と緩和が絶妙なコントを見てるようで終始にやにやが止まりませんでした、濱口監督作品は『ドライブ・マイ・カー』しか見た事がなく、本作はかなり軽妙で見易いと思っていたら....

そして問題のラストですが、序盤から青と赤の色の対比が示すおそらく自然と人間のメタファー、不穏な劇伴や音、台詞や写真の小道具に至るまで全ての伏線が緻密に構成されており、そこから多少の意味も見い出せましたが、それでも尚、不可解で衝撃的でしたね。





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以下はネタバレを含めた私見です、未鑑賞の方はスルーして下さい。












人間の道理と自然の摂理、人と人のエゴ、一方から見れば善で他方から見れば悪、それぞれの立ち位置を譲る事がなければ自分こそが善で"悪は存在しない"。

人間の道理や概念さえない物言わぬ自然はただそこに存在して、バランスを崩した者を許さない、人間と自然の双方の代弁者に思えた巧が娘を失った私怨の原因を人間とした事も相まって、最終的に鹿の精霊に取り込まれたのかも知れませんね、高橋へのチョークスリーパーは相互理解で解決できた?個人的には巧に最後までその努力をさせるビックバジェット的なハッピーエンドも良いと思いますが、それも片方から見れば独善的な悪に映るとも限らない、ミニシアターの小規模公開だからこそ出来るチャレンジングな試みを今後とも監督には期待したいですね。

単なる二元論では解決出来ない白や黒では無い灰色の部分に光を当てたクリストファー・ノーラン監督『ダークナイト』や是枝裕和監督『怪物』に似た時代の空気感を反映した傑作だと思いました。

これは色んな人と語り合いたくなる好みな作品でした、そしてポスターの言葉通りそれぞれの君の話になるのでしょう。
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