パイルD3

悪は存在しないのパイルD3のレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.0
タイトルからして挑発的な匂いがしますが、
オイ!お前とお前、君たちはどう生きるか!とか、巨匠たちがいろいろキーワードを投げてきますね最近。
頭ん中に悪が存在してませんか?と質問返ししたいです。

タイトルにはぐらかされるのですが、これは監督のギミックで、この世に悪は存在しないなんて監督が思っているわけがなくて、謎を観る者に放り投げてきて、“何を悪とするか?“の基準を個々に問いかけていると思います

…そんなわけで、この作品で濱口竜介監督は、最後に意外なクイックモーションを見せてきて、ちょっと驚かされました…

⚠️欄外のコメント欄↓にラストについての
 ネタバレを追記しています


【悪は存在しない】

“まだ賛成も反対もしていない“という主人公のセリフが出てくる。
映画全体を観ると、この賛成も反対も無い立ち位置、この瞬間には“悪は存在しない“ということだと思わせる。
イエス、ノーではなく“中立“というものが存在することを主人公の自称、何でも屋(大美賀均)が、自然に対し、動物に対し、そして人間に対して見せていく。
これが自然に対するひとつの大きなメッセージになっているようだ

物語は一言で言うと、
長野県の山間にある田舎町で、グランピングビジネスを持ち込む業者の連中と、受け手となる住民たちの微妙な対立のドラマ
環境アセスメントを意識したストーリーで、特に水流による公害を具体的に取り上げている。

《銃声》
時折遠くで聞こえる異様な銃声、これは人間による直接的な破壊行為の象徴で、グランピング施設の建設は間接的な破壊行為として語られる

《途中経過の美学》
「ハッピーアワー」の時にも書いたが、濱口竜介監督の映画は、一言で言うとすれば、あらゆる“途中経過“を描いている気がする。

それは単なる通過点でもあり、描かれている以前の時間の中にも多くのドラマは存在していて、描かれた時間の後にもまだドラマは延々続いていくことを意識させる語り口で、今回も正に、起点も消失点も見せず、環境問題に直面した人々の途中経過を見せた。

唯一、主人公の娘(西川玲)の存在は、ファンタジーな色合いがあって、自分だけの空間を持っている。
逆にこれがドラマに複雑で危険な色味を与えて、観る側を混迷に導く


◾️雑 記

◉今回は森林の中を横に這うトラッキングワークが特に効果を上げている。

◉エージェント役の渋谷采郁さんがイイ、
不穏と緊張が続く中で、最後まで“中立“の
立場を取り続けて、ドラマにほどよい中和感を生み出していた。
濱口作品の典型的な無風芝居を、全く無理なく、自然にこなせる貴重な女優さんだと思う。

◉この作品に限っては、ケリー•ライカートの映画によく似た、感情を抑制した作風で、導入部や繰り返される薪割りのルーティンは、新藤兼人の「裸の島」の流れを思い出させる。
終幕のシークェンスに至っては、最近観た「ゴッドランド」のような唐突な衝撃を感じた。

ただ、討論会スタイルは濱口監督の必殺技なのでガチなヤツが繰り広げられる。
“まだ賛成も反対もしていない“
というセリフは、この討議の中で登場する


⚠️ラストについてのネタバレ追記↓↓
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