パイルD3

マジカル・ガールのパイルD3のレビュー・感想・評価

マジカル・ガール(2014年製作の映画)
4.5
「マンティコア 怪物」のカルロス•ベルムト監督が、世界的評価を得たのが「マジカル•ガール」

最初観た時、その語り口と展開にさすがにぶっ飛んだ。こんなタイプのノワール映画は初めてだし、巧妙に仕組まれた大技小技の連続に激しい衝撃を受けた。

悪のもたらす負のエネルギーと、闇に包まれた負のエモーションが全てを覆い尽くしていく。
マイナスとマイナスならプラスに転じるかと思いきや、マイナスのままという不条理。

冒頭のシークェンスで“完全な真実は2+2=4だ“というセリフが出てくるが、それは必ずしも真ならずと、ひっくり返してみせるような映画である


【マジカル•ガール】

日本の魔法少女アニメの熱狂的ファンで、白血病で余命短い娘(ルシア•ポジャン)にアニメのコスチュームを買ってやろうとする失業中の父親(ルイス•ベルメホ)が、高額過ぎるプライスを知り、いつしか危険領域へと入り込んで行く…

思えば、娘の夢でもあるヒロインのコスプレでダンスを踊りたいというモチーフから、ドラマは次々と枝葉が伸びて、幾人かの人物を巻き込みながらあらぬ方向へと向かい始める。

誰かが誰かのために力を尽くそうとする話なのだが、力を尽くす手段のすべてが犯罪に直結している。もはやまともな終結は望むべくも無い…

情緒不安定と言いたいくらい波動が変化する不穏なストーリーは、因果が絡み合いながら予測不能な流れで進み、一度引き込まれると、そこには残酷な迷宮が待ち受けていて、抜け出られなくなる。

それを助長するのが、重い過去を抱えていて何かを喪失しているらしきバルバラという精神科医の妻(バルバラ•レニー)
彼女の過去については何一つ語られないことで生まれる不気味さが、ストーリーを支配している。

特に後半のドラマのインパクトはただならぬ緊張感で釘付けにされる。
韻を踏むトリッキーな終幕の見せ方も、絶妙な呼吸。

随所に監督のアート感性がみなぎっていて、目に焼き付けられるシーンのトラウマ級の画作りはハンパない。

後ろを向けこっちを見るな、と言われてもジイッと此方を見ているあの目の怖さといったら…


果たしてマジカル•ガールとは誰のことなのか?誰しもラストカットで確信する…


◾️監督カルロス•ベルムトのこと

ベルムト監督は、日本オタクで特に「聖闘士星矢」に始まるアニメと手塚治虫、水木しげる、丸尾末広らの漫画の大ファンで、映画より先にイラストレーターとしてデビューしたグラフィックノベル作家でもある。
そっちで得た利益を元手に映画を撮り始めて、スペイン国内で話題を集めて本格的に映画監督へと転身してきた人物らしい。
 
一年の三分の一は日本で過ごすほど日本愛が強く、邦画では勅使河原宏監督の不条理劇「砂の女」がお気に入りで、日本映画も新藤兼人や大島渚、寺山修司、今村昌平らの作品から園子温、岩井俊二らの作品をリスペクトしているようだ。
好きな作家は「砂の女」の安倍公房や江戸川乱歩のような奇異な小説世界に強く魅かれているという。

※この作品内でも、刑務所から出てきた元教師(ホセ•サクリスタン)が、「俺は刑務所で殺人犯、暴行犯、小児性愛者連中と10年間一緒に過ごした」と語るシーンがあった。
どうでもいいことですが、
「マンティコア」へのつながりにふと気づくわけですが、ひょっとして監督にも闇なる過去とか内なる闇がある…のかな??
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