KnightsofOdessa

プリシラのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

プリシラ(2023年製作の映画)
4.0
[プリシラから見たエルヴィスとの生活] 80点

傑作。2023年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。ソフィア・コッポラ長編八作目。プリシラ・プレスリーが1985年に出版した自伝『Elvis and Me』を原作としており、製作総指揮にはプリシラ本人が名を連ねている。映画は1959年に西ドイツ駐留中のエルヴィスが14歳だったプリシラに出会うところから始まる。プリシラとエルヴィスの身長差は実際には20cmほどだが、映画では40cmまで拡張されている。日本のいわゆる青春キラキラ映画でもこの手の身長差は利用されているが、本作品では存在自体の威圧感を視覚化している。プリシラに会ったエルヴィスは二回目にして寝室に招き、ママにも会わせたかった…と言い出し、授業中寝たくないならコレを飲むと良いとか言って怪しいお薬をくれるなど、いきなりロイヤルストレートフラッシュをキメてくる(後に彼はプリシラを"サトニン"と呼ぶが、これは元々は母親のニックネームだったらしい)。しかし相手は既にスーパースターだったエルヴィスだ。プリシラも舞い上がってしまう。エルヴィスは帰国すると3年間も音沙汰なしで放置した上で、いきなりメンフィスに呼び寄せて、常飲しているお薬を飲ませて二日間も気絶させるというグルーミングサイコ野郎ムーヴを見せる。物語はずっとこんな感じでモラハラ男エルヴィスを描いている。本作品ではパーカー大佐もプリシラを従わせるための体の良い言い訳にすぎない(~って大佐が言ってたとエルヴィスは言うが、本当に言ってたのかエルヴィスが思ってることを大佐が言ってたってことにしてるのか見分けがつかない)。そして、彼の近くには有象無象の名もなき取り巻き男たちが常に群がっていて、その情景からも分かる通り、彼はガキなのである。しかも、無意識な"大人になれなかったガキ"ではなく、自分に有利不利な瞬間ごとにガキであることを選び取るようなタイプのそれである。そういったネチネチしたキモさを丁寧に描いている。中盤以降の舞台になるメンフィスの邸宅はある意味でドールハウスのようであり、プリシラが徐々にエルヴィス好みの人形化していく様は中々グロテスクで、結婚式のシーンなんかプラスチックみたいだったし、産まれるかも!と男たちがバタバタしている音を聞きながらバッチリ化粧するシーンにも背筋が寒くなった。

ちなみに、リドリー・スコット『ナポレオン』の感想に"ソフィア・コッポラ版『ジョゼフィーヌ』求ム"って書いてあったのには失礼ながら笑ってしまった。本作品をエルヴィス目線で描いてダイジェスト的に並べて"伝説の解体"と居直るなら『ナポレオン』になるかもしれない。
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