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金持を喰いちぎれ デジタルリマスター版のnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.7
 猫も杓子もデジタル・リマスター化及び4Kレストア化が続々進む2023年の世界線においては、一応世界各国古今東西どんなカルト映画が来ても大丈夫だという腹づもりで身構えているのだが、いやいやまさかの今作のリマスター化にはびっくりこいた。ある種の白人至上主義者たちの夢の楽園としてカルトなパンク・ムーヴィーやハードロック・ムーヴィーの掘り起こしが続いているわけだが、おそらく今作はその決定打になること間違いなし。何しろmotörheadのレミー・キルミスターの演技が見られる20世紀の重要な作品だから。例えばMTV的に言えば、Beastie Boysのデビュー曲『(You Gotta) Fight For Your Right (To Party)』の露悪的な世界を90分のプログラム・ピクチュアの中でやってしまった的なドタバタ・ムーヴィーで、モンティ・パイソンの後釜と呼ばれたイギリスのコメディ集団コミック・ストリップのメンバー、ピーター・リチャードソンが監督、差別やヒエラルキーとの闘いを描くブラックコメディとして知られている。実は予告編のロンドンで最も金持ちの集まる高級レストラン・バスターズの内部だけで描かれる物語かと思いきや、超タカ派内務大臣ノッシュ(ノッシャー・パウエル)の挿話が極めて微妙で、さくっと反乱を起こして、さくっとやりたい放題して欲しかった。

 然しながらピーター・リチャードソンは今作を枠の映画として撮りたかったようで、様々な構図や相関関係を丁寧に描写するのみで、この手の映画としては決定的にたるかった。ジェンダーも人種すらも超越したようなアレックス(ラナー・ペレー)の描写は極めて現代的で、令和の目線で見れば完璧な学級崩壊に見えるバスターズの描写はひたすら笑える。ホームレスにイスラエル人を持ち込んだ時点で人種差別丸出しだし、ある種冷戦構造化の末期だからこそスルー出来た表現のギリギリの案件である。全てのショット、全てのシークエンスがもれなくバカで、バスターズをEat the Richと置き換えた時点から始まるボンクラたちの狂騒曲ももれなくバカで、突如ステージにおびき出されたレミー・キルミスターの演奏は今作のハイライトで、それ以上でもそれ以下でもない圧巻の素晴らしさだった。アレックスのリクルーティングが始まってからが苦痛のような時間なのだが、最後は主人公が憎しみの生まれた場所に戻り、憎悪を滾らせる。いつの時代も貧しき者のリア充への恨みつらみには程度の差こそあれど変わりはなく、サッチャー政権の光に当たらなかった鬱屈した人々はこうして拳を突き上げていたのだ。ブレグジットやアメリカのラストベルトの人々の現在の世界線を見れば、今日の危機は既に80年代に種を蒔かれていたのは間違いない。あまりにも早過ぎたカルト的な作品である。
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