Lila

落下の解剖学のLilaのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.9
アカデミー賞シーズンに乗ってます。多々受賞してるものの全く知らない作品でしたが、予告編すらやめたほうがいいかもと思い、情報をシャットアウトして観てみました。

これは傑作。面白い以上に、とにかく「強い」!キャラクターが激強、脚本が秀逸、センス光る構成、くど過ぎない映像の工夫と美しさ。主役だけならず全員の演技がレベル高過ぎて華やかに舞い、雪景色の美しく且つ唯ならぬ閉塞感に包まれる統一感を維持し、とんでもなく惹きつけておきながら、観終わった後の気持ちとしては、こってりした高級料理を食べた後に歯を磨いて眠らせてくれないこの感覚ww

ピカイチでした。とにかく制作から演者まで関わっている人のレベルが高い。バキバキに仕上がってます。筋肉質な作品です。

勝手な解釈ですが、この原題「Anatomy of a fall」は事件の落下だけでなく、それぞれの「人生が転落していく生態」といいますか。そこら辺にかかってるかな?と捉えてます。全員落ちていってます。

敢えて音楽を使わず、静かなシーンが多いのも印象的。それもあって、音楽流れた時の不快感が凄いです。そこも狙っているはず。そして、フランス語で且つヨーロッパ発声の英語は耳障りが良く、凄いセリフ量ですが、聴きやすく心地いいです。

謎が多過ぎて、それぞれの想いや思想がベースになるので、音声の証拠を出されても、その人の、その人の考えの、その人の視点があるので、人間の数分の捉え方があります。

法廷シーンが続き、終始心理戦にも関わらず、ダレないのがお見事過ぎます。最後は、決定打の探し合い。よく言う、「事実は一つ、真実は人数分」。

何より、全役者のレベルが凄過ぎます。旦那、息子、弁護士、検事、付添いの人、そしてワンちゃんまで!抜かりありません。犬が天才過ぎて、助演賞獲れますw 息子役はここ最近見た子役の中でも抜群でした。

でもとにかく、主役のサンドラ・フラーが化け物すぎます。セリフの運び方がツボ過ぎて!滑舌が超好みです。健気にも見えて、鬼にも見えて、強くも見えて、弱くも見えて。謎めいた強さを維持したのは彼女の存在感です。

気になって見返すと、冒頭のインタビューから自分を担当する弁護士にまで、ずっと色目遣い。そういう人なのか、孤独なのか、もう捉え方次第過ぎて困ります。

ハイライトである旦那との口論シーンはレベル高過ぎて圧巻。何度も見返してしまいました。観てる人によって、彼女の見え方は違います。それなりに生きていれば、両サイドの言い分は分かるはずです。人生の体重が乗っかってました。特に国際結婚してる人なら、響くところも多いでしょうね。

でもやっぱり、最後はお互いに感謝と労りの気持ちを持てるか、それを伝えられるかだなあ、と。難しいのだけども。

ちなみに、「君は誰にも笑わない」みたいなことを旦那が言いますが、ドイツ人は無闇矢鱈に笑顔を振りまかないのですよね。フランス人の旦那には辛いかもしれない(アメリカ人やラテンにはきっと理解不能の域)。

こーーーれは強い。今年の主演女優賞は過去一のレベルでは!NYADのアネット・ベニングの憑依に圧倒されて、Poor Thingsのエマ・ストーンの覚悟決めたハマり具合に感服し、それでも唯一無二の存在感を放ってたKillers of the Flower Moonのリリー・グラッドストーンを推してたのに、もう誰が獲ってもおかしくないのでグラグラです。どーすんのよ。みんな合同受賞とか無理でしょうか?ww

ここ数年、アカデミー賞や映画自体から少し離れてましたが、2023年の豊作っぷりは、もう一回私の中の映画熱を目覚めさせてくれました。この作品もその一つですね。

じっくり、キャラクターの心理戦を楽しみたい人にお勧めです。

追記: 日本で公開されて、レビュー増えましたね。そうか、これをサスペンスものとして期待してた人はガッカリだったのか!なるほどー。全然そんな見方してなかったのでビックリ。事件を軸にしてるだけで、これはヒューマンドラマの部類だと思います。視点によって、真実が如何様にも変わる様です。

追記2: アカデミー脚本賞は歓喜!!筋肉質な脚本なので、これは久しぶりに唸りました。主演女優賞は拮抗過ぎて、エマ・ストーンに取られちゃいましたが、サンドラが勝ち取る日は近いと思ってます。1年ズレてれば…全然違ったようにも思います。わんこのメッシも会場にいて、やはり、この犬の天才っぷりは誰もが認めてるのね、と思ったのでしたw
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