花俟良王

エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命の花俟良王のレビュー・感想・評価

4.5
素晴らしい見応え。
何よりも19世紀の出来事に没頭させてくれる眼福。教会を始めとした場所のリアルな美しさと人物たちの衣裳、さらに聖職者たちの儀式や小道具の豊かさ。「再現」ではないかもしれないが、徹頭徹尾ため息が出るほどの精緻さで物語に没頭させてくれる。大変な労力だったろう(アーチのある広場は『蟻の王』でも出てきた気がする)。そして重厚な音楽もいい。エンドクレジットは往年のサスペンス映画のようで聴き惚れた。

そして物語は残酷で理不尽だ。宗教と権力が家族を狂わせる。しかしこの作品は宗教批判というよりかはあるゆるシステムへの批判だ。キリスト教は物語的には悪役になるはずだが、そこまで悪くも描かれない。観客にも「もうこのままでいいじゃないか」と思わせてしまう理不尽なシステム。アホみたいな発端で子供が誘拐されたのに取り返せない裁判というシステム。そして理不尽の極みとも言えるラストに繋がる。

既に80代に入っている重鎮ベロッキオの手腕に衰えは微塵も感じさせず、緊張感を維持しつつ、テンポよく多面的で長尺な物語を魅せる。真似しようにもなかなかできない豪胆なベテランの作品。満足しました。
花俟良王

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