花俟良王

マエストロ:その音楽と愛との花俟良王のレビュー・感想・評価

4.0
ネトフリ作品だが新文芸坐で観れて良かった。終盤の教会での長回しのマーラー演奏シーンは素晴らしく、クーパーの堂々たるバーンスタインぶりと音の迫力に息を呑んだ。

演者としても監督としてもクーパーは一流であることを証明している。イーストウッドとの出会いが大きく影響をしていると思うが、あまりウエットにならない。これみよがしに泣かせにこない。またバーンスタインの功績を細やかにすくう訳でもないので、それが物足りないと思う人もいるかもしれない。しかしその分のラストのマーラーである。夫人が別離の考えを改める程のインパクト。なので、このシーンに乗れるか乗れないかで評価は変わって来ると思う。

とはいえ、時代考証に即した撮影、衣裳などは圧倒的に素晴らしく、要所でのCG/VFXも作品の魔法をストレスなく助長する。演者の温度もコントロールされており、役者が監督をするメリットが遺憾なく発揮されている。特にキャリー・マリガンの後半の演技は圧巻だ。

ひとつ問題があるとすれば、クーパーが素晴らしい演技を披露する度に、「これ自分が撮ってんだよな…」と嫉妬にも似たお門違いの感情がよぎり、鑑賞のノイズになるかもしれないということだ。
花俟良王

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