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PERFECT DAYSのあのネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます


パーフェクトデイズ。完璧な日々ってなんだろう?

普遍的な日々の中に於ける少しの幸せ。

序盤はおじさんの味気ない単調な日常が物静かに繰り返される。しかしこの一見退屈に思える羅列した日常が特に洗練されたものに感じた。
※すべて個人の身勝手な解釈です。

今作の特徴は「連続する日常、時の流れと人」であって、終始時の対比、今と昔のコントラストがよく描かれていたように思う。
ボロアパートに住むおじさん(平山)が綺麗でお洒落な公衆トイレを清掃する。接点が無さそうに思える今時な若者(後輩と憧れの女の子)とおじさん(平山)。いつも平山が訪れる浅草駅地下の昭和漂う居酒屋通りと隣接する現代的な改札。平山と姪っ子のやりとり等。
そしてその対比の中で関わっていく人々にはそれぞれ、ひとりひとりの世界がある。

平山の頬にキスをしたあの子にはあの子の世界。
その子に憧れる、バイトをバックれた楽天的な後輩の世界。
太極拳のようなコンテンポラリーダンスのような動きをする浮浪者の男の、俗に言う変人の世界。
姪っ子の世界。平山姉の世界。平山の世界。それぞれの世界。

平山は他者との交際の幅が比較的狭く閉鎖的なため、普遍的日常に時たま訪れる、変則した人との繋がりによってその人の世界の一端を知る。そしてそんな夜に見る夢では日常的な木々の記憶に加えて、他者の名残、余韻、残った記憶が【影】となって現れる。

それぞれの世界について平山が姪に放った言葉
「世界は繋がっているようで繋がっていない」「お母さんと僕とでは住む世界が違う」
これは裏を返せば繋がっていないだけで繋げることは可能。という解釈が出来る。
繋がりたい人。繋がりたくない人、あるいは繋がれない人。それぞれに当然存在しているのだろう。
そしてその後の「今度は今度、今は今」という言葉は、先の繋がりに固執し生き急がずとも、いま目の前に広がる自分の世界、そしていま繋がっている姪と平山の世界があるのだから今この瞬間を大切にしよう、という意味に思えた。

影について。
「影って重なると濃くなるんですかね?」そんな漠然とした疑問から生まれたやり取りだが、
「(重ねても)変わらないんじゃないですかね?」と言われて「濃くなっている気がする」と頑なに主張する平山は無論、物理的な変化を主張したい訳ではない。
濃くなって欲しい。重なることが無意味だなんて虚しいじゃないか。平山にとっての影とは数少ない特別なものであって、人と人が関わる意味をそこに強く見出したい平山の願望、想いがそうさせたように思う。影を知り、その持ち主である光を知る為に。
「世界は繋がっているようで繋がっていない」といいつつも、他の世界との繋がりを信じている平山の心情が垣間見えるシーンだった。

似ているようで一日一日異なった日々、だけれど実はいつも違う。時は確実に流れ移り変わっていく。だからこそ、彼にとって褪せず不変的な音楽は特別なものなのかも知れない。
そう考えると改めて音楽は素晴らしい表現方法であって、不変でありたい人、そうでない人。
不老不死というテーマを考えさせられる。

「何で今のままでいられないんだろう?」
女将の言葉がより沁みてくる。

平山のような少し世俗から外れた簡素な生き方は、意外と簡単そうに思えても迎合で溢れる社会、そこに生きる顕示欲の権化のような現代人にはやや難しかったりする。本当に大切なものを見極めて、大切なものに喜びを見出していく力が必要になってくるからだ。
小さな喜びで良い。平山は日常の小さな喜びを噛み締めながら過ごしているように映った。

それは平山のトイレ清掃にも一貫して強く反映されている。
汚れたまま時の流れに身を任せっきりにせずに、汚れていると気付いたら都度毎日掃除する。
トイレは汚れやすいものだから、自分の満足出来るベストを持って生きようとする精神からであって彼の人生哲学に則った行動と言える。

誰かのための献身さというよりも、人生に於いての自己満足に近いのかも知れない。

物事というものは見る角度次第で見え方が違ってくるものであり、都合良く捉える事もより良く自分の人生を生きるための方法であって、各々その人にとってのベストな生き方がある。

そして、言葉数の少ない平山から発せられる一言一言だからこそ言葉の重みを感じずにはいられない。

口は災いの元と言うけれど、言論の自由は知らず知らずに枷となって閉塞的な息苦しさを作っているのかもしれない。もっと感覚的な生き方を尊重しても良いなと気付かされた。

そんな凡ゆる出逢いの末生み出された累々とした感情がいっぺんに爆発する、悲しくも嬉しくもあるようなラストシーンの何とも言えない平山の表情。
日常の起伏緩やかな彼ならではの特別な瞬間だったように思う。

彼にとっての充実した完璧な日々。ニヒル的とはまた異なる連続する日常。デイではなくデイズ。
現代生活の本質を革命的に突き、のんびりとした作風に逆行するような衝撃的な内容だった。

僕の中では未だに平山の影が残っている。
あ