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PERFECT DAYSのたのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
3.7
あまりにも示唆的な作品で、描かれていない部分を想像することではじめてこの映画は閉じられる。
1回目の感想では、わたしは高級イタリアンのコースに行ったのだと勘違いしていたのかもしれない。注意してこの作品で描かれているものを読み解くぞ(味わうぞ)!と意気込んでいた。しかし私が行ったのは実は高級イタリアンのお店ではなく食材はある程度用意しているので後は自分でどうにかしてくださいというキャンプ感を売りにしているアウトドア料理店だったのだ。

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過度な感情移入を拒む作品

淡々とした平山という男の日常を描く本作。とても示唆的な作品で、描いていない部分を観客に想像させる積極性を促す映画だと思った。
•姪のニコとの銭湯後に常連客が驚いている笑いどころの後、実は現実には世界が複数あって姉と自分の住む場所は違うということを語る
•好きな女将の元夫のガン告白され後に影踏みをする
など決して重くなりすぎないように軽みを演出しており、1回目見た時にはそこがどうも馴染めなかったがこれも立派な演出なのだと思う。
平山という男の日常を描く作品なので彼に感情移入させることは簡単だろうがそれをとらない。この演出から監督の、平山という男をある種批判的にも見てほしいという監督からのメッセージがあったのだと私は理解した。

平山という男

過去を背負って必要以上に人と関わらずに平山は自分にとっての理想的な生活を送る。ささやかなことに喜び生きる。それは彼が朝起きて空を見上げ笑顔になることに集約されているように感じる。彼は本心からその素晴らしさを噛み締めている。それは半ば条件反射的にまでなっているのかもしれない。

ラストの長回しのシーン

やや唐突だが平山の生活は私にとって一つのあり得る未来の姿の一つに思える。将来トイレ清掃員をするという表面的な部分ではなく、1人で生きていくということ。私の人生の先にある可能性の一つとしての平山的生き方が存在する。しかし、その平山的生き方はかなり実現が難しい生き方だ。ゲームだとかなりのレベルを積んだのちにしか達成されない姿に私には思える。毎日朝時間通りに起きて仕事を真面目にこなすこと、これがどれほど難しいことか!日々の小さな幸せに気付きそれを嬉しく思うこと、それがどれほど難しいことか!平山の生活はわたしが未来で到達できるか怪しい一つの理想的な境地だ。その理想的境地の平山がラストで笑いながらも顔を歪め泣く。空を見上げ朝日を見ることであれだけ笑顔になっていた人間が!わたしはそこに底知れぬ絶望をみた。
(監督はこの映画に関するインタビューで平山は過去に様々なことがありその経験を乗り越えて今は僧侶的な生き方をしている男だと語った。仏教では未来も過去もなく今ここをみつめるという教えがある。悲しみや苦しみに満ちた世界を生きるための知恵だろう。そんな生き方をしている平山が今ここのみを見つめることができず崩れたのがラストシーンだと私は思った。彼は今ここではなく、過去と未来によって引き裂かれたのだ。これは暫定な解釈。)

いずれにせよ「老い」と「孤独」を念頭に、我々はいかに生きるべきだろうか?そんなことを考えさせられた作品だった。人は1人で生まれひとりで死にゆく。では、どう生きるべきか?
平山という生き方の[欺瞞]について考えることがそのヒントになる。そんな気がしている。

平山という欺瞞





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