KnightsofOdessa

Dáblova past(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Dáblova past(原題)(1962年製作の映画)
4.0
[白い粉挽き職人と黒い聖職者] 80点

傑作。フランチシェク・ヴラーチル長編二作目。『マルケータ・ラザロヴァー』『ミツバチの谷』へと緩く連なる中世三部作の第一作。三作品に共通しているのはヴラーチルのキャリアでも最も過激にイデオロギーの対立を描いていることであり、本作品でも先祖代々受け継いできた水や土地の安定性についての知見を持つ粉挽き職人一族と、それを悪魔の仕業と考える異端審問官との戦いを描いている。16世紀初頭、ヴァレチュの摂政は自身よりも人気を集める粉挽き職人を気に入らない。カンカン照りの草原で雑草刈りしているところに粉挽き職人の息子ジャンが水を持って現れ、人々が仕事を中断してコップを持って駆け寄るシーンや、旱魃への祈祷行進中にジャンの父親が水源を発掘して人々が駆け寄るシーンは象徴的で、粉挽き職人の親子がある種のヒーロー的存在であることが一瞬にして理解できる。逆に神出鬼没で常に黒い服を着用している審問官は悪魔のように描かれている。不安定な土地に建てた納屋でのパーティでは、踊るマルティナ(ジャンの恋人)の揺れ動く目線からみた映像の中で、周りも踊る中一人動かずに立っている審問官の姿は、視点が定まらないこともあって、見えてはいけないものが見えてしまったかのような恐ろしさがある。

審問官/摂政vs粉挽き職人父の構図は、マルティナを取り合うジャンと狩人フィリップの関係性として反復される。審問官と父親の直接的な対決がない分、ジャンとフィリップの殴り合い周辺のパーティシーンは見せ場として描かれている他、バークレイショットを使用するなど、ヴラーチルらしからぬダンスシーンまである。また、粉挽き職人一族が敵視される原因となった、100年前の襲撃事件、及びそこからの全員生還も反復される。フォークロアを現実のものとして映像化しながら、それを伝説にしてしまう希望的なエンディングには、これまでキャリア後期の地獄めいた憂鬱から覚めるにはちょうど良かった(残しといて良かった)。

馬が製粉所に近付いてくることを示すシーンで、『怒りのキューバ』の葬儀シーンなみの空中撮影があるんだが、マジでどうやって撮ってるんだ?
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