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almost peopleのnetfilmsのレビュー・感想・評価

almost people(2023年製作の映画)
3.8
 人というのはそもそも何らかの欠損を抱えて生まれ、その欠損を埋めるために自分の人生を取り繕う。偶然、そのパズルのピースを埋めるような人に出会えた人はラッキーで、人は奇跡的な誰かに出会いながらも、自身の欠損はそう簡単には埋められない。というか欠損そのものがその人の魅力を形成すると考える私にとっては「もうすぐ人間」という視座はない。都心のレストランに集まった神尾家の4兄弟はどこかぎこちない。画面のルックは都市の風景を切り取るのが絶妙に上手い横浜聡子の演出なのだろうが、オムニバス形式の作品には正直言ってある種の功罪付き纏う。何かの感情に鈍感な人々を扱った作品であることは重々承知しているのだが、作劇的にリレーをしている感覚は正直申し上げてほとんどなく、横浜聡子も石井岳龍も加藤拓人も守屋文雄もそれぞれが好き勝手に自身が作りたかった作品を作っているに過ぎず、それを何らかの「欠損」というテーマで強引に結び付けたい配給側の意図はわかるのだが、個々人の監督にその辺りの認識が浸透しているはとても思えない。一番期期待していたのはやはり石井岳龍の2話目だったが、完全に『ネオ・ウルトラQ』以降の世界観で、今の社畜的な労働問題に怒りを結び付けるのはわかるのだが、革命の元に結束する集団のシュプレヒコールなど、随分過激で突飛だった。しかも2話目だけが音のレンジも烈しくて、最前列で聴くギターのノイズはそれはもう凄かった。

 一番良かったのは横浜聡子の1作目で、喜びの感情を忘れた脚本家の悲喜交々で、中盤から主演俳優の宇野祥平とのロード・ムーヴィーに行き着く辺りの男同士の逡巡が素晴らしい。あのカレー食べませんか?の件も実に横浜聡子らしく、都市の中でもがき続ける主人公・神尾光(嶺豪一)の感情を見事に導き出している。次に良かったのは加藤拓人の3本目で、楽しさがわからない次男の神尾太陽(井之脇海)のエピソードで、受け手に回った木竜麻生の自然な演技には彼女の底知れぬ才能が垣間見え、それでもなおもがき続ける井之脇海の姿にいつも煮え切らない青年期を重ねてしまう。然しながら4話目のブルージーな温泉物語を最後に持って来るのは正直言ってどうなのかと思った。オムニバス形式でそれぞれの物語を語る意思はわかるのだが、普通に横浜聡子監督に全てを任せた方が統一感のある出来の良い作品になった気がしてならない。4人にイニシアチブを預けた時点で映画そのものが散漫になってしまった。もしかしたら4話全てに現れる登場人物として映画の主を1人置けば、もう少しわかりやすくなった気もする。4話目の主演を務めた白田迪巴耶さんは(しらたみはや)と読むらしいが、目力の強い女優さんで今後、注目して行きたい存在感だった。逆にもはや中堅に位置する火水子を演じた柳英里紗さんの作品世界に上手く馴染まない戸惑いは、映画の現場が持つ根源的な生々しさだろう。然し石井岳龍作品に通底する強い女が脆く崩れ去る及び中性的な女性のイメージにはしっかりと当て嵌まっていた。草むらコロコロからの渋川清彦の腕を掴み酩酊する彼女の場面は今作のトンデモ場面だった。
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