本好きなおじぃ

水は海に向かって流れるの本好きなおじぃのネタバレレビュー・内容・結末

水は海に向かって流れる(2023年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

直達は、高校通学のため実家を離れて、叔父・茂道の住む家に居候することになる。最寄りの駅に着いた時、迎えに来てくれたのは榊。茂道とはルームメイトだというが、直達は彼女なのではないかと疑う。
やがて、茂道の家に到着すると、榊が作ってくれる牛丼に舌鼓を打つ。おいしい。そしてその後、シェアハウスであることを告げられるとともに、茂道はマンガ家で、親戚には知られたくないことも伝えられて困惑しながらも、茂道と榊が付き合っているわけではないことを知る。

あくる日、直達は学校へ行く途中に捨て猫を見つける。周りに飼えないかを聞きまわり、クラスメイトの楓にも協力を求める。すると、シェアハウスに共に住む泉谷の妹であることが判明し、捨て猫をシェアハウスで買うことが決まり、楓もシェアハウスに出入りするようになる。

そんなある日、バーベキューがシェアハウスで行われたとき、住人で大学教授の成瀬が榊と話しているのを耳にする直達と楓。なんでも、榊の母親と直達の父親がダブル不倫をしていて、榊の母親は戻ってこなかったと聞き…。

一緒に暮らすことになってから、直達と榊がややこしい関係であることを知り、二人は思わずぎくしゃくしてしまう。
榊は諦めたふうに振る舞うが、なんとなく直達はその様子に納得がいかない。そんな中、事態をややこしくさせるのは、直達の様子を見に来た、直達の父・達夫だ。応対した「榊」の名を聞くや否や、榊が禁忌にしたい母親の話を振ったそのとき、事件が起こる。


奇妙すぎるシェアハウス生活に、登場人物それぞれが、自分の好きなように生きている世界。たいがい人間社会はそうなのかもしれないから、この映画はそれを端的に表してくれているのだろう、と思えるくらい、登場人物の所作のリアリティさに共感する。
そして、直達から榊に向かう関心、とりわけ榊が母親のことを諦めていること、そして榊には幸せになってほしいことがきっかけで、彼がいなかったらきっと安寧を続けていられたであろうこのシェアハウスにおいて、時間を前に進ませてくれる原因になる。

みな自分勝手で、自由。
それだけに、憎みたいことはあるのだが、誰も憎めない。
しかし、憎めないと思い込んでいるわたしたちも出し抜くかのように、直達は時間を前に進めようとする。その様子に、榊もわたしたちも戸惑い、身もだえするのだが、それは果たしていい結果に進むのか、否か。

ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEARに選ばれた同名の原作漫画はちらっと読んではいたが、最後まで読んでいなかった。
それだけに、途中までのシナリオをある程度知っていたので、榊役に広瀬すずが合うのかどうか、という気もしていたが、榊のきまぐれさをうまく表現し、それ以上にきれいな顔立ちの人がスクリーンの中で暴れまわっている様子がとても清々しかった。
また、直達役の大西利空も、素朴な表情から繰り出す、鈍感だが真っすぐなその視線に胸打たれる。
楓役の當真あみは、自分勝手で自由で、でもたぎる思いをまっすぐに伝えようとする。
茂道役の高良健吾はふっとんだ笑顔で彼らを温かく包み込む。

全員が全員に対して寄り合っているこの映画は、マンガの世界観をそのままに、よりエモさを増した内容で、結末まで目が離せないはずだ。