誰もが心の中にしまってある想いを重ねたくなるし、今を大切にしたくなる。サスペンスでもないのにずっと心拍数が上がってた。
主人公の記憶と想像、ホームビデオの記録だけで描かれるパーソナルでミニマムな作り。
30歳の父と11歳の娘がバカンスに行った時のホームビデオを、父と同じ年齢になった娘が観る。
あの頃は何も見えていなかったし、思い出は補正される。でも、日焼け止めクリームを塗ってくれた父の手の温もりだけは確かな実感として残る。
父の娘への想いと、大人になった娘が父を想う気持ちとが重なって、切なさと儚さとノスタルジーで心がグチャグチャになるような映像体験だった。
親は子供に弱い本音を見せることはない。子供は実のところ親のことは隣人ぐらい知らない。親子関係って改めて考えると不思議だなぁと。
リゾート地なのにさびれた雰囲気のホテル、一緒にいるのに終始漂う寂寥感、何か起こりそうな不安感、バカンスの明るい日差しが逆に暗さを際立てていく。
細かい描写を確認したくて2度観ましたが、父のことを知ってから観る2度目は哀しみしか残らなかった。娘と共に過ごした時間が幸せだったからこそ、より心が痛む。
「音」が印象的で、アケルマン監督作品の音に影響を受けたと何かで読んだような。父役のポール・メスカルの繊細な雰囲気と自然体の優しさがすごくよかったなぁ。
カラオケのR.E.M.の曲、バースデーのサプライズ曲、最後のUnder Pressure、曲が歌詞とリンクして沁みる。
考える隙を与えてくれる余白が心地よい最上級に切ない作品でした。