浄土

フェイブルマンズの浄土のレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.7
選ばれてあることの 恍惚と不安と 二つ我にあり

ヴェルレーヌ / 智慧

※※※

『バビロン』や『エンパイア・オブ・ライト』など、ここ最近劇場公開された「映画を題材にした映画」の中では頭2つ3つ抜けている。スピルバーグの年の功ってのもあるかもしれないが、やはりフィルムメイカーとしての説得力が桁違いだし、映画が「悪い意味でその人の人生を変えてしまう」という負の側面を真っ向から曝け出すその姿勢は、業界の中心にいる人間の態度として真摯としか言いようがない。

創作の深淵に彼を誘うメフィストフェレスの如き大叔父が言ったように、映画はドラッグだ。呪いであり、カルマなのだ。ヒンズー教のシヴァ神のように、ひたすら創造と破壊を繰り返していく。徐々に心が疲弊してアイデアが枯渇するかもしれないが、それでもその歩みを止めることができない。良いとか悪いとかではなく、それが定めなのだからと言わんばかりに。

そして今まで散々人体破壊描写を見せてきたスピルバーグ作品の中でもとびきり残酷だ。

ここまで内省的な作品とは予想していなかったというのも本音ではあるけれど、家族の終わりですらも全て映画に昇華したい・昇華するしかない男の地獄めぐりはこうして幕を開けたのかと思うと、したり顔で「映画って本当素晴らしい!」などとは口が裂けても言えなくなる。デミアン・チャゼルはスピルバーグの爪の垢でも煎じて飲んどけばいい。

あと、スピルバーグもしかして『桐島、部活やめるってよ』見た…?
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