ヨダセアSeaYoda

正欲のヨダセアSeaYodaのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
-
【OUTLINE】
 自分の息子が不登校YouTuberに影響を受けて自分もそうなりたいと言い出して困惑する父親、周りから独身であることを責められるような日々にうんざりしながらとある秘密を抱える女性、ブラック企業を辞めて地元に戻ってきた、これまたある秘密を抱えた青年。
 彼らそれぞれの交錯する物語を通して、「普通の人生」や「普通の幸せ」とは何だろう、と考えさせる物語。


【REVIEW】
 試写で泣き崩れそうになった。こちとらホワイト安定職にすら居場所を感じられずお堅いお仕事を辞めた"(啓喜に言わせると)社会のバグ"だもんで、グッサグサ刺さるんだ。

 マキシマム ザ ホルモンの曲(「予襲復讐」)に、「普通や一般という名の異常な正常者」の「正気の沙汰に痛めつけられた」って詞がある。まさにそんな側面も描いている映画。

 何が"普通"か分からない世界で"普通"たろうとすることもまた異常で、それを追い求める道もまた、今の時代においては地獄だと思う。
 "普通"がよしとされる世界で"普通"を幸せに思えないことは、苦しい。でも何が幸せか分からない世界で子供の幸せのために判断しなければならない親もつらい。

『桐島、部活やめるってよ』『何者』『少女は卒業しない』と同じ原作者朝井リョウによる小説が再び映画化。
今回もメインキャストは稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗と超豪華です。

 多様性が叫ばれるようになってきた世界。それでもまだ多様性をしっかり認められたとは言い難い社会だし、同性愛者などの立場が徐々によくなったとしても、世界には他にもまだまだ理解してもらえない人々がいる。

 さらに、多様性という概念は、誰がどんな幸せを求めたらいいのかというわかりやすい指標を奪っている一面もあり、「普通でいいや」と思って「普通の幸せ」を信じていた人々が、信じてきた指標を失うことにも繋がる。

 そんな、価値観がアップデートされていく現代を生きるさまざまな人の苦難や困惑を、リアルに切り取った物語には感服する。これは原作がすごいのか映画がすごいのか…。

 こんな映画ができるんだ。この映画の誰かに共感できるなら、そしてもしこの映画には共感できる人がいなくてもきっと、自分にも、みんなも、どこかに仲間がいる。1人じゃない。

---
観た回数:1回
ヨダセアSeaYoda

ヨダセアSeaYoda