染夫木智也

渇いた鉢の染夫木智也のレビュー・感想・評価

渇いた鉢(2022年製作の映画)
3.0
「絶望」には簡単に希望の光は生まれない、現実の理不尽さを突き付けられた映画

監督は宇賀那健一さん。
30歳まで童貞だったら魔法が使えてヒーローを目指す「魔法少年☆ワイルドバージン」や音楽や映画などの娯楽を禁止にした世界を描いた「さらば静寂」など幅広く、個性的なジャンルの映画を撮る印象が強い監督の最新作。

物語は7歳の娘を誘拐事件で失い、その後、妻まで自殺で失い、一人残された夫がかかえ、家族を守れなかった自分を責めながら日々を暮らす話。

正直「人におすすめしたくない映画」です。

すでに分かる通り、超暗い物語で、途中から暗くなる系ではなく、96分間終始暗い。もうポップコーンを食べる元気もなくなるくらいしんどいし、幸せだった時の家族のシーンや、もし生きていたらって妄想のシーンもあるんやけど、既に亡くなっている現実があることで、逆に超つらい。

ストーリーだけでも結構メンタルやられるのに、演出もしんどい。

ダラダラ、テンポの悪く、まとまりがない。
セリフが言い終わって無言の余韻みたいなのが長かったり、説明がほぼなく人物が出てくるんやけど、だれかわかるのに時間がかかる。

見ていて憂鬱で、もし家で見ていたら15分くらいで見るのをやめるかもって思うくらい。

しかし、舞台挨拶での監督の言葉で少し納得させられた。
観客に主人公と同じ理不尽さ、絶望感を味わってほしかったので、わざとまとまりあった脚本も何度も書き直しをさせて、理由付けを無くし、あえてまとまりのない内容にさせたらしい。

その言葉を聞き、映画などの作り物って容易に希望を与えることができるけど、大切な人を理不尽に失うくらいの絶望にたいして希望は簡単にあたらない現実の厳しさ、無力さをつきつけられたような気がした。
「なめんなよ現実を」って。

めっちゃ厳しいし、逆にそれが宇賀那監督のやさしさなのかもしれない。

とはいえ、絶望を強く感じた映画なので、もう一度みたいとは思えない内容だった。
まあ、豪華なキャストをそろえ、見やすい雰囲気を予告で演出し、広告しまくった結果、まったく理解のできない分けわからん映画であったリメイク日本版「cube」に比べれば、見る価値は絶対にあると思う。

映画館に見に行った当初、一週間限定上映やったけど、順次公開予定なので気になる人はぜひ。