アー君

SHE SAID/シー・セッド その名を暴けのアー君のレビュー・感想・評価

3.5
ニューヨーク・タイムズの2人の女性記者は映画プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインによる複数の性被害をスクープして告発した話は、アラン・J・パクラが撮った「大統領の陰謀」のウォーター・ゲート事件のように、ニクソン大統領を失脚に導いたワシントン・ポスト紙の記者であるカール・バーンスタイン(ダスティン・ホフマン)とボブ・ウッドワード(ロバート・レッドフォード)のコンビに似ており、それを意識した撮り方をしているが、彼らのようなカリスマ性がなかった事や、映画としての完成度という点では平凡だったということである。ストーリーテリングの弱さや構成・演出に面白味がなく、ジャーナリズムの素晴らしいところを描けずに勿体無かったというのが正直な感想である。

(ジョディ・カンターを演じたゾーイ・カザンの祖父が「欲望という名の電車」のエリア・カザンだったとは後で知って驚いたが。)

しかし財務を担当したアーウィン・ライターや代理人ラニーが「大統領の陰謀」の情報提供者であるディープ・スロート(マーク・フェルト)のような役割を兼ねているようでもあり微笑ましい限りである。

キャスト陣で良かったのはサマンサ・モートンの演技は短いながらも印象に残り、アシュレイ・ジャドは本人役で登場したのは、この事件でかなり人生に影を落としたようで感慨深い出演である。

またスマートフォンが取材として必要な道具として使われ、最終的には新聞に落とし込むのが目的ではあるが、それ以降の#MeToo(ミートゥー)運動の流れはSNSによるデジタルメディアを意識した報道姿勢に時代の変化がみえる。

グウィネス・パルトローも被害にあったようで、この映画製作はPLAN Bであり、ブラッド・ピットはプロデューサーの立場としてワインスタインとの対立関係だけではなく、元婚約者として男のケジメもあったのだろうけど、どこまでもエエカッコシイでさりげなくマメなところが世界中の女性からの評価を上げているが、サエナイ野郎どもの世界代表として言わせて頂ければ勘弁して下さいである。

これは遠い国の出来事とはいえず、日本では少年の性被害が世間を賑わしているため、今まで黙認してきた報道機関も責任が問われており、この映画が身近な問題として捉えているレビューを多く拝見した。

日本の大手放送局は新聞社が出資しており、グループ企業とまでは言い切れないが、新聞とテレビの持ちつ持たれつの共依存のようであり、時勢の流れに順応した報道しかできない御用ジャーナリストの温床の場である。それは腸の中にいる日和見菌と大差はなく、権力監視が果たして機能しているのかは疑問が残る構造である。

ウォーター・ゲート事件以降に個人情報保護法が米国で法案として成立されて、後に本国でも右へならえで施行されているが、プライバシー保護という観点は建前であり、ワインスタインの悪行を踏まえれば、政治家や財界人、著名人のスキャンダルから身を守るための法律でもあることに注視すべきである。

加害者側の少年愛は性障害の一種であるが、医学的な言及がされていないのも気がかりである。

このような性被害をノンフィクションに近い映画として、企業名も隠さずにパラフィリア障害の問題を日本で製作することは可能だろうか?

ニューヨーク・タイムズはインターネットの普及などで部数が落ち込み一時期は経営難に陥ったが、独自のコンテンツを構築しながら、有料のデジタル化を押し進めて購読者数を大きく伸ばしている。そして読者の4割が30代までの若者でミレニアル世代である。(2023年はデジタルだけの購読者数は約900万人。紙媒体は2万人の減少。)
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