椿本力三郎

ブロンドの椿本力三郎のレビュー・感想・評価

ブロンド(2022年製作の映画)
3.9
本作を、マリリン・モンローのドキュメンタリーだと思うから色々とおかしなことになると思う。
マリリン・モンローという「時代のバケモノ」に憑依されるノーマ・ジーンの苦悩と葛藤。時代を経るに連れてバケモノは性的消費の対象としてどんどん育っていき、ノーマを喰い尽くすスピードも加速していく。
そのスピードや光と影のギャップの大きさを強調すべく、ベースとなる実在の人物のエピソードから離れていく部分は多いのだろうが、それはまさに映画的な「誇張と省略」であって作品の評価は別のところに置かれるべきであろう。
そもそもノーマは幼少期に母親から虐待を受け、過度に父性に期待する極めて不安定な存在。この不安定さゆえにセックスシンボルであるマリリン・モンローに成りえたのかもしれない。だからこの作品のタイトルは「マリリン・モンロー」ではなく、「ブロンド」なのだ。その時代の何かを象徴しているだけであって、たまたまそれがマリリン・モンローであり、たまたまそのバケモノに魅入られたのがノーマであったということ。
この点、人間の普遍性と切なさを感じさせる。一時代を築くということは、時代の要請に応じるということ。単なる役割を引き受けただけであって、引き受けた側は多くのものを犠牲にしている。マリリン・モンローが関係する男性がプロ野球選手、著名な劇作家、大統領であることは、そこに何か共通するものがあるのかもしれない。そして彼らがノーマを癒すことはなかった。彼らが示したものはマチスモであって、本質的な、すなわちマリリンではなく、ノーマが心から求めていた父性ではなかった。
主演のアナ・デ・アルマスが素晴らしい。常にどこか不安げな笑顔に多くの意味を持たせている。音楽と照明、カット割が見事で3時間弱の長尺も気にならない。