1960年代の香港を舞台に、既婚者同士の切ない恋を描いたウォン・カーウァイ監督のロマンス映画。
偶然同じ日に同じアパートの隣同士に越してきた2組の夫婦。しかし、それぞれの伴侶が不倫をしている事に気付いた時、孤独を感じたチャウ(トニー・レオン)とスー(マギー・チャン)は、互いに慰め合うように時間を共有し始める—— 。
主演女優のマギー・チャンと言えば、ジャッキー作品でお馴染みで、80年代のお若い頃は何せお転婆キャラでイメージが定着していただけに、年齢を重ねた美しさに惚れ惚れした。
そして、トニー・レオンである。
んー。カッコいい。
大人の男の色気が漂う。
俯瞰的に捉えず、近い距離で人物を映し出す。
それぞれの夫と妻の姿は、いつもアパートの部屋の中に隠して映さない。彼らの不倫はあくまでフレームの外。文字通り隠されている。
しかしチャウとスーが互いに想い合う恋模様は、一線を越える事はなく、あくまでもプラトニック。だからこそ…切ない…!!
鉄格子越しに捉えた男女2人の姿は、何処に羽ばたく事も出来ない鳥籠のよう。彼らの行き詰まった様子が感じられる。隣同士の部屋で壁越しに、相手を想うシーンも素晴らしい。
全てのシーンに意味を見出したくなる、
いや、きっと全てのシーンに意味がある。
何度もリフレインするテーマ曲も印象的。
シーン毎に着替えられた、色味の違うスーのチャイナドレスが美しい。
ごっこ遊びのつもりで、何となく距離を縮めていく2人。しかし、もう密会しないと決めたつもりのごっこ遊びで、咽び泣くスー。そうか…そこまでに彼女の想いも募っていたのか。
舞台の終着点はカンボジア。
男は2人の秘め事をカンボジアのアンコールワットに封じる。誰にも知られる事がないように。
きっと、何年経っても彼らの恋心を忘れない。
刹那の美しさを封じ込めた本作は、これからも長きに渡って評価され続けるだろうから。