椿本力三郎

ザリガニの鳴くところの椿本力三郎のレビュー・感想・評価

ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)
3.8
ミステリーに分類するにはあまりにも単純な仕掛けで物足りなく感じると思う。一方、「クズ男の屈折した愛情がもたらした悲劇」として見ると味わい深さが出てくる。

事件の被害者は地元の名士の二世であるチェイス。
このチェイスは主人公のカイアが「湿地の娘」であるからこそ興味を持ち、
「湿地の娘」がその湿地に留まりつつも、自らの才能と工夫で大きく飛躍しようとした瞬間に
いくら裕福だとは言え、結局、地元から逃れられない自分のコンプレックスを刺激されてしまう。
そしてその延長線上に、という極めて人間臭いお話。
圧倒的な格差から生じる優越感が逆転したときに起きる「クズ男」のわかりやすい反応。

「湿地の娘」は、これまた「クズ男の極み」のような父親に虐待を受けて育っている。この闇の深さは最近のアメリカ映画には多く描かれているものである。

また、本作では陪審制と「世間の偏見」の危うさにも触れられており、やはりミステリー映画に分類しない方が、この作品のメッセージの本質に近づけるように思う。