椿本力三郎

さかなのこの椿本力三郎のレビュー・感想・評価

さかなのこ(2022年製作の映画)
4.0
意識的に積極的に1年に2、3作品は見ておくべきホッコリする「童話」です。

冒頭からしばらく続くB級カルト映画っぽい展開は、
「さかなクン」というそれ自体が映画的な存在のストーリーから
のん演じる「ミー坊」のストーリーへと転換するのに必要な遠回りだったかもしれない。
終盤の45分ほど、ミー坊が社会に出て
世間の「普通」の壁にぶつかって、ぶつかってするあたりから、
この作品が本来描きたかったメッセージがにじみ出てくる。

われわれは「一見すると痛い存在を応援し続けられるか」ということである。理解を超えた具体的な「応援」。
そして「応援している人が実は応援されている」ということも。
支え合っているというのではなく、「応援」を通した人間関係。
そういう「よのなか」って良いよね、という。

私はこのメッセージに気づいてから
自然とホアキン・フェニックス主演の「ジョーカー」と比較していた。
すなわち、このメッセージは
ひたすら暗く重たく表現しようとすれば、
充分に可能だからだ。
この作品はそのメッセージを「童話」で描いている。
本質的に悪い人、ズルい人が1人も出てこない。

ジョーカーの主役は「痛い存在」がそのまま「痛い」ものとして
社会の誰からも応援されず、やがて「ジョーカー」となった。
ミー坊には、家族がいて仲間がいた。
そしてそれぞれの立場から全力でミー坊を応援していた。
「好きなものをひたすら追求しなさい」という教育は
実は、「そういう自分を支えてくれる仲間を大切にしなさい」という、
もっと大切なメッセージを前提として内包している。

ミー坊は仲間が与えてくれる「機会」を何度か取りこぼすのだが、
最後の最後で見事に花が開く。
いいじゃないか、これは童話なのだから。

柳楽優弥と井川遥が圧倒的に上手い。
TV番組に出たミー坊を本当にうれしそうに眺める柳楽の表情を見て
思わずもらい泣きしそうになった。
柳楽は、圧倒的な演技力で主役を輝かせる素晴らしい脇役。
そして井川遥は若い時よりも「今ここ」の方がはるかに魅力的だ。

さて、夏帆演じるホステスについて。
彼女が突然ミー坊のもとを去ったキモチ、
めちゃくちゃわかる。
ミー坊への彼女なりの応援が応援にならなかった。
そしてそのことがミー坊の大切なものを手放させるきっかけになってしまった。
そりゃ、いたたまれなくなって、あの場を去りたくなるだろう。
大きく丸々と育った金魚はこのホステスの誠実さのメタファー。
彼女のくだりは極めて落語的なエピソードといえる。

また、こういう「痛いけどみんなから応援される存在」を演じることは、
のんの真骨頂ではないだろうか。
もう男であろうが女であろうがどっちでも良い。
そしてそこに説得力をもたせられるのは「のん」だから、だと思う。
芸名を能年玲奈に戻す必要はないのでは?