アー君

PIGGY ピギーのアー君のレビュー・感想・評価

PIGGY ピギー(2022年製作の映画)
3.6
公開前から話題になっていたのと、本編の元となったショートフイルムがゴヤ賞などを受賞していたので、気になっていた作品である。

肥満体型のキャラクターが差別の対象になるフィクションはあるようでなかったかもしれないし、このような復讐譚は意外と珍しかったかもしれない。現実に学校や会社でも太めの人はいらっしゃるし、映画では誇張しすぎだが、世界共通で分かりやすいテーマである。

女性監督で初長編らしいが、一部のカットに冗長なところもあり、編集をもう少し丁寧にして欲しかったのが本音ではあるが、画面のアスペクト比率を3:4にする意図を昔のテレビ画面の懐かしさと、現在のSNSによる投稿画像を意識していると言っていたが、偶然なのかサラの体型をよりボリュームのある演出をしている。(最近では「ザ・ホエール」にもこのような撮影方法であった。)

【以降ネタバレがあります。】

監督はLGBTQである事を公言しているが、肥満女性であるサラを個人的なマイノリティとして投影している事を読み取ることができる。ペルソナ(意識)であるサラの反対側には、シャドー(無意識)である猟奇犯罪者の男が存在している。また薄汚いプールの世界は、女の子の日にも口やかましい毒母(母性)であるミソジニーの象徴ではないだろうか。

これは同性における母親嫌悪が過食(嗜癖)の原因であり、横道には逸れるがデ・パルマの「キャリー」では初潮のシーンで事前に教えなかった母娘の確執を描いており、この映画にもそのような生々しいテーマが見え隠れしていた。

サラは虐めを受けた同級生を最初は見捨てたが、結局は助けてしまった理由に疑問がない訳ではないが、男を殺したことで自我を統合したならば、上記の心理的な構造でそれなりに納得はいく。

本編を鑑賞後に評価を受けた短編(約13分)が気になりYouTubeで視聴をしたが、基本的な内容は同じで、車に連れ去られた女性を見届けた後に、(女に盗まれた)男から返された衣服やヘッドホンを付けて終わるが、短いながらも要点を得ており、比較をすると映画版は短篇を無理に引き伸ばしている感じではあるが、長編で追加された母親の存在と不明な男の死は短編を補う上で必要不可欠な要素である。

※母親役のカルメン・マチはペドロ・アルモドバル「抱擁のかけら」などの常連女優

パンフレットは中綴じの32ページ。紙の斤量が厚く、もとから薄いピンクが地色であるのにとても好感度が持てた。(個人的には無線綴じが好みではあるが。)

[新宿武蔵野館 12:30〜]
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