アー君

MEN 同じ顔の男たちのアー君のレビュー・感想・評価

MEN 同じ顔の男たち(2022年製作の映画)
3.1
余裕を持って映画館の前で掲示板が表示されるのを待っていたのだが、10分前でも開場アナウンスがなかったのでモギリさんに確認をとったところ別館だったことが判明したので慌てて会場に向かった。

主演した俳優陣が英国出身であったためなのか、欧米的に分かりやくすく撮ろうとする意図は汲み取れたが、とは言いながらも非常にイングランド的な映画であった。

【↓以下はネタバレ↓】









なぜ同じ顔の男性ばかりでも主人公ハーパーの反応は薄いかの考察は一般的な解釈に任せるので省くが、個人的に気になったのはグリーンマンよりも両手で女陰を広げている「シーラ・ナ・ギグ」である。この石像は中世の修道院や教会の扉に刻まれており、映画よりももっと露骨に広がっている石像もある。この塑像を作った意図は歴史学者によって解釈は違うようだが、おそらく魔除けの役割として彫っていたのではないかと思われる。脚本を兼ねている監督はその事については言及をしていないが、映画において不審な男が「ドア」から手を出して襲おうとした時にハーパーが攻撃する場面を暗に示しているので合点がつく。

現在の教会にこのような石像がないのは、今の私たちに違和感を感じているのと同様に風化してきたのと300年以上も経った政治的な圧力で禁止されたのかと推測する。生殖器崇拝は世界各地にあり、日本でも大きい摩羅(男性器)を神輿で担いでいるので、名残としてあるのは知ってはいる。これは仮説になるが宗教が禁欲的なのは最近であり、キリスト教(ケルト系)といえどもあの頃の時代は性には柔軟だったのかもしれない。

女性が女性を産むのは自然ではあるが、男性が男性を産む行為は生物学上ありえないが、特殊効果を使いながら伏線として種子が飛ぶタンポポの映像(自己だけで種子を作り出す単為生殖)を絡ませて皮肉交じりにホモソーシャル(男根主義)批判として演出していた。

最終評価として過去に「エクス・マキナ」を見ているので後半の特殊技術も良く出来ていて期待通りであった。しかし回想シーンによる夫が自死に向かう行動に無理がある事(仮に妄想である可能性もある。)や映画全体として個人ではなく性差の違いから恐怖の感度にバイアスが生じているので、さほど好きにはなれず佳作であった。

例えば映像で男性の急所が危害を受けるシーンで露骨に反応をするのは男性のみだと思う。この映画を制作する上で実際にDV被害に遭われた方の証言などを入念にリサーチしているため女性には響くかもしれない、しかし監督は男性であり漠然と母権性を示しながらも、皮肉にも本編にようにハーパーが洞窟の中の自身の声で反響音が呼応するだけであり、結果的に男性性を謳歌しているため、この映画を見ることで被害の傷を深くさせている場合もある。

これは全ての映画作品にいえることだが男女差を超越した第3の性という表現もあるのではないだろうか。(かといって中性的な表現を求めている意味ではない。)

パンフレットはB5変形の正方形でコンパクトにデザインをしている。ぱっと見ではシックで大人しい感じだが、扉にはタンポポを背景に小さくタイトル文字を乗せており、映画と同様にこの物語を暗に示唆している。
本文を使用している紙はマット紙(文字)とコート紙(絵柄や写真)タッチが違う2人のイラストレーターを使う事でアクセントを出して上手に使い分けている。そして中央部分のみ別紙でグリーンマン、見開きには夜空、シーラ・ナ・ギグを特色シルバーで見せ場を作っていた。

余談になるが紙の手配は簡易校正だと違う紙の場合もあるので最終確認が取れない事もあり、営業→業者への伝言ゲームで納品後に意図しない紙で刷られてしまう事故もある。職業的なトラウマなのかこのような経験があると自身が手配をおこなって納品するまでに不安な日々を思い出し、本編の映画よりもパンフレットの加工仕様に恐怖を感じてしまった。

A24製作・配給

[TOHOシネマズ日比谷 12:25~]
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