むらむら

ザ・ホエールのむらむらのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
5.0
特殊メイクで270kgの巨漢を演じた主演のブレンダン・フレイザーが、アカデミー主演男優賞を受賞したということで、鬱監督で苦手なダーレン・アロノフスキーの作品にも関わらず鑑賞。

結果、鬱作品は鬱作品だったものの、心をも打つ作品だった。

アジア系看護師のリズの介護で何とか生きているオンライン大学講師のチャーリー(ブレンダン・フレイザー)は、太り過ぎで心臓への負担が大きすぎて一週間も生きられないと宣告を受ける。妻を捨てて生徒だった男性と駆け落ちし、その男性が不慮の死を遂げたことで、深く心に傷を負い、極度の肥満になってしまったチャーリーは、死を目前にして訪ねてきた別れた妻との間に出来た14歳の娘との対話を開始する。

「人間が人間を救済できるのか」

というテーマが一貫して、そこに、宗教やLGBT、肥満や保険制度、教育といったアメリカの抱える課題が絡み合っていく。言い換えると、アメリカ問題が詰め合わさった幕の内弁当をバクバク食べてるよな内容。

「ホエール」というタイトルは、何度か引用されるメルヴィルの「白鯨」から。巨漢のチャーリーを指してるんだと思うが、娘の「ウンチク長すぎて、本編はじまる前に心が折れる」という「白鯨」の感想に共感しかなかった。

逆に、共感できなかったのがチャーリー。主人公でゲイだから何となく許されてるように感じるけど、よく考えたら、生徒と駆け落ちしたクズだよね? これ女子大生と駆け落ちした大学講師だと考えたら、肥満で死んでも全く同情心が起こらない気がする……。

加えてチャーリー、オンライン授業を途中で投げ出すとか、悩みを赤裸々に明かした生徒たちの作文を皆の前で勝手に朗読するとか、娘のSNSを密かに検索するとか、やってることがかなりクズすぎてドン引き。

だが、そんなチャーリーのドン引き要素を補ってあまりあるのが、ブレンダン・フレイザーのデブ演技。

アカデミー賞では特殊メイク賞も受賞したらしいが、クジラのような巨体で息をするのすら苦しそうなブレンダン・フレイザーの演技には、圧巻の一言しかない。

以下、俺的、ブレンダン・フレイザーの、この作品でのデブ演技ベスト3を挙げておく。

1.頑張って歩くシーン

まずは何と言っても、娘に命令されて、歩行補助器を使わないで歩くシーン。強烈。安定を失いかけながらも、ドシン、ドシンと娘に向かって歩いてく姿は、リアル「進撃の巨人」にしか見えない。

4DX上映だったら、ブレンダン・フレイザーが歩くたびに客席に振動の演出が入っているところだ。

あまりに歩くのが大変そうで、なぜか最近観た海外のニュース

「一部のヘビは、這わずに、体を丸めて転がりながら移動する」

というのを思い出した。ブレンダン・フレイザーも、転がって移動すればいいのに……。

2.ピザを踊り食いするシーン

デブだから絶対あるだろうな、と思ってたのが、食べるシーン。特に、ピザを踊り食いするシーンは印象的。デリバリーに頼んでうず高く積み上がったピザのハコを、消えるマジックのような早業で平らげていくチャーリー。

この表現で伝わるかどうか分からないが

「志村けんのスイカ早食い」

が憑依したかのような圧倒的なスピード感があった。お前、あんなにゆっくりしか歩けないのに、食べるのだけクソ早いやんけ!

3.ゲロシーン

そして、食べたら当然ゲロもある。

「逆転のトライアングル」の感想で

「最近の映画はやたらゲロシーンが多い」

と書いたが、ここでもまたゲロシーン発見! と、思わず嬉しくなって、劇場で小躍りしたくなってしまった。ってか、絶対、誰か「ゲロシーン入れろ」って後ろで手を引いてるフリーメーソンのゲロマニアいるよね!?

ブレンダン・フレイザー以外の主要な登場人物も熱演。若手宣教師も娘も看護師も、それぞれに事情を抱えており、彼らの人生の問題が、チャーリーを中心にほぐれていく。特に、アジア系看護師を演じたホン・チャウは、「ザ・メニュー」でも給仕係が印象的だったので、今後いろんなところで観る機会が増えそう。

しかし、チャーリー、デブの引きこもりで余命わずか、っていうのに、やたら人が来るの羨ましい。

俺ん家なんて、宗教の勧誘は来るけど、こんないいヤツじゃないし、それ以外だとNHKの勧誘しかこないよ。14歳の女子中学生が来てくれるなら、俺も4倍くらい太ってもいいぜ。

それにしてもさすがアカデミー賞と言わざるをえないブレンダン・フレイザーの演技。

ぜひ次回作では、「北斗の拳」にこのメイクで出演して

「めんどくせー めんどくせー 息をするのもめんどくせえ~」

って吠えてほしい!と心の底から思いました。

(おしまい)
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