カラン

遺灰は語るのカランのレビュー・感想・評価

遺灰は語る(2022年製作の映画)
4.0
ずっーと兄弟でやってきたダヴィアーニ兄弟の弟パオロ(1931〜2024)が、兄ヴィットリオ(1929〜2018)の死後に、1人で映画を撮った。弟から亡き兄への献辞で始まる本作は、実在の作家ルイジ・ピランデッロ(1867〜1936)の死を巡る。ピランデッロはノーベル文学賞を1934年に受賞し、亡くなる。遺言はシチリアの故郷の岩の中に灰を埋葬するようにというものだったが、10年経って戦争が終わっても、まだローマにあった。戦後シチリアの役人が引き取りに来て、、、


本作はピランデッロの遺灰の顛末を描きながら、オムニバス形式にしようとしたのか、最後に小説家のピランデッロの短編『釘』を映画化したものが付いている。そこで本作はスウェーデン、ローマ、シチリアと舞台を移していき、シチリアの膨大なサファイアとでもいった調子の青い海で灰が撒かれたところで、『釘』の舞台であるブルックリンに移る。モノクロームであるが、遺体の焼却炉の火炎だけはカラーで、シチリアの海にやって来て再びカラーになり、その後の『釘』もカラー。

ところで本作の原題は”Leonora addio”で、「さようなら、レオノーラ」である。これはピランデッロの『釘』とは別の作品を指しているが、そのシーンは省略されて、タイトルだけ残ったようだ。そうすると、『釘』以外にもピランデッロや、その他の作品を織り交ぜて、イタリアの戦後を描こうとしたのだろうか?

本作を観ていて、ベルイマンの『野いちご』やタルコフスキーの『ノスタルジア』を想起した。死に向かって老いゆく人生に不意に飛来する溌剌としたバンビーノの可笑しさ、愛らしさにファンタジーが溢れる。サファイアの海のカラーをしっかりと映像に収める際に、散骨が骨壷からの解放のようで、さすがだなと。また、戦禍のシーンはロッセリーニのフィルムだと思われるものが挿入されていた。

『釘』はちょっと厳しい。グリーンバックか何かで背景を相当に弄っているだろう。そのリアリティーの欠落した、イタリア移民たちの仮想ブルックリンで、女の子たちが諍いを始める。バンビーナたちはケンカの演技を演技する。墓守のように釘で刺した少年は年を取り、何十年という歳月の経過をメイクとおそらく VFXで辿る。監督の身体がついてこなかったのだろうか。演出も映像も中途半端である。



シチリアに向かう列車で、イタリアの青年がドイツ人の娘と愛し合う。戦争が終わったから一緒になるのだという。娘はドイツ語をちゃんと何度か話すがイタリア語は分からない。それでも青年はイタリア語で語りかける。目頭が熱くなった。「可哀想なイタリア映画」ではない。


DVD。映像は美麗。もうちょっと味が欲しいが画質は良い。5.1chの音質は控えめだが立派。シチリアでの葬送の際の大太鼓のサウンドエンジニアリングに痺れた。音圧は大したことはないが、どしゃんと胸に落ちてくる。
カラン

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