てつこてつ

東京2020オリンピック SIDE:Aのてつこてつのレビュー・感想・評価

東京2020オリンピック SIDE:A(2022年製作の映画)
3.5
スポーツ全般が好きだし、このコロナ禍に実施された東京五輪も、日本で中継された競技種目はほぼ全部録画視聴したくらい個人的には思い入れが大きい大会なのでアマプラで視聴。

まず驚いたのは、先日鑑賞したWBCの侍ジャパンの活躍ぶりを描いた作品とは大いにテイストが異なり、ナレーション無し、映像素材と登場人物のインタビューのみでの構成で、非常にメッセージ性が高く、ドキュメンタリーではありながらも、映画的な要素も良い意味で取り入れられていた事。また作品内で取り上げられる選手たちの多くが女性であり、河瀬直美監督ならではの個性が強烈に出ていたと思う。

その点、各階級で金メダルを大量獲得した柔道や、内村航平の後を継ぐ日本体操界の新星・橋本大輝選手等の有名日本選手がフィーチャーされているかと期待して鑑賞してしまうと肩透かしを食らうので要注意。

さすがに世界中のオリンピアンを知っているわけではないので、名前は失念してしまったが、冒頭部分で内戦状態が続き政情不安定なシリアからボートでドイツに亡命した男子水泳選手が紹介され、また、直前の柔道世界選手権でイスラエルとの選手との試合を避けるよう強制辞退させられたイラン国籍の柔道選手が亡命後にモンゴル国籍を取得して東京五輪では決勝戦まで進む姿、米国では人種差別について積極的な反対活動を行うハンマー投げ女子選手など、健全さの象徴であるオリンピック精神とは相容れない政治・宗教・イデオロギーのリアルな現状を描いているのには感心した。

また、東京五輪では見事に銀メダルを獲得した日本女子バスケットボールの代表を出産直後で辞退せざるをえなかった選手にフォーカスが当てられ、彼女の対照的な存在として、積極的にSNS活動などを通して大会組織に働きかけ、母乳で我が子を育てる母親の権利を主張し、無事に夫と娘を大会期間中に来日させたカナダ代表チームの選手の姿が描かれ、この作品のメインテーマとなり得る象徴にしたのは、やはり河瀬監督らしさが感じられる。ラストに観覧席で日本代表チームの銀メダル獲得を目の当たりにしたこの元日本代表選手が流した涙の意味は凄く深いぞ。

シーンとシーンの繋ぎ目に真夏の東京の様々な空=宙のショットを入れ込んだ演出も、作品全体の映像が美しい中、際立って自然の美しさを映像を収めるのが上手い河瀬監督ならでは。
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