☆☆インフレが気になるクライム・サスペンス
最終パートまで見ましたので、総論的なレビューです。
・メタファーとしてのペーパー・ハウス
ドラマタイトルについて、最初は造幣局が紙幣=紙を印刷する家だからペーパー・ハウスなのかと思ったが、調べてみたらスペインの造幣局は"de Moneda y Timbre" とかいう名称で、"LACASA DE PAPEL(紙の家)"ではなかった。
犯人グループは造幣局を襲撃する前、廃墟のような建物で合宿生活をおこなう。造幣局の侵入から脱出までの間、ありとあらゆる考えられる限りのトラブルを想定し、ケース毎の対策を頭と体に叩き込むための訓練をする。そこの座学部屋に造幣局の立体模型(紙)が置いてある。それでペーパー・ハウスというタイトルがつけられたそうだ。
が、それだけではなく、造幣局のわりには簡単に落とされてしまう危うさ、犯人グループや警察内部の人間関係のもろさ、そういった弱さを“紙”というすぐにやぶれてしまう物をメタファー(暗喩)として表現しているようにも思えた。
・コードネームは都市名
犯人グループ全員、それぞれを「ベルリン」とか「トーキョー」とか各国の首都や大都市名のコードネームで呼び合っている(ブラジルの首都はリオではないのよ)
ゆいつ、今回の作戦リーダーだけは全員から「教授(プロフェッサー)」と呼ばせている。メンバー同士を実名で呼ばないのは、昨今の個人情報保護法の観点からではなく、教授の狙いとして、実名で呼び合うといつの間にか私情がはさみ込まれ作戦上のガバナンスにスキが生じるからだと。
にしては、グループ内でめちゃくちゃ私情はさみ込まれてますが・・・
・シュールレアリスムの仮面が演出に功を奏す
犯人グループが警察との交渉時など表に出なきゃならないとき、面がわれないよう仮面をつける。その際、人質にも同じ仮面をつけさせる。そうすると犯人か人質かの見分けがつかなくなり、狙撃から身を守れるからだ(賢いのう)
その仮面はスペイン出身でシュールレアリスムの奇才「サルバドール・ダリ」の顔をモチーフとしている。生前のダリの写真は、左右の宙をさした黒ヒゲとギョロッと目をひんむいて写っているのが有名(日本でいうと岡本太郎みたいな)。このダリ仮面をつけた人がウォーリーを探せみたくワラワラ出てくると、なんともいえないシュールな空間が浮かび上がる。
Netflixでは制作時のドキュメンタリーが配信されていて、あちらではダリ仮面、結構バズってたようです(自分も欲しくなった)
・全体としては2部構成(1部のみ見てもスッキリ)
1部はパート1と2の22話構成。犯人グループがスペインの造幣局を乗っ取る話で、一旦事件はそこで完結する。2部はメンバーが再会し、今度は銀行を襲撃する。
1部の評判がすこぶる良かったせいか、2部は予算がジャブジャブついたのかもしれない。とにかく1部の何倍ものスケール感があって、1話だけで1本のアクション映画を撮ってるような印象がある。
ただ、気になる点もある。
2部では、1部の造幣局襲撃前の準備期間がフラッシュバックしながら並行して描かれるのだが、なんかこう後出しジャンケン感を拭えない。
1部の登場人物の言動から想像できないようなキャラ設定が前準備期間で描かれていたり、登場人物間の関係性にも齟齬があるような気がした(自分の認識です)。
まあでも、そんな細かい話は抜きにして2部も負けず劣らず面白いことに変わりはありません。
本作2部とも結果オーライです。
普通、こういった犯罪ドラマ、最終的に失敗する結末が多い。たぶん、成功させてしまうと、ドラマとはいえ実際の犯罪を助長しかねない、つまり模倣犯が出てくる恐れがあるので、さすがにそれは制作サイドとしては避けたいからという理由が大きいような気がする。
念のため制作サイドの代わりに言っておくと、造幣局でたくさん紙幣を刷ってそれが市場に出回ると、貨幣価値が下がります。相対的に物価が上がることになりますのでインフレとなります。インフレとなると、せっかくゲットしたお金も価値が低くなります。みんなも困りますし、義賊どころか恨まれます。
なので、良い子は絶対真似しないように・・・笑
ちなみに、NETFLIXでは、韓国版リメイク「ペーパー・ハウス・コリア(統一通貨を奪え)」が今月配信予定だそう。
どう料理しているのかすごく楽しみです!!