出会いは黄色、深まりは赤、別れは黒。それは愛しい人が着ていたパーカーの色。14階の眺めの良い部屋からぽつんと見送った色。たった二日で心の中に専用の部屋を作り去っていった人。でもその空白の部屋は私を少し>>続きを読む
小さい頃触った羊の感触を思い出しながら見ていた。想像していたような白くふわふわの触感ではなく、薄汚れていてゴワゴワと固かった生きている羊の毛。全く知らない物語なのに、グリム童話の実写化を観ているような>>続きを読む
前半は《編み物というアートを通して生きる意味を問う》みたいな内容で想像してたのと違った。もちろんアートは突き詰めると全部そうなんだけど、編み物の歴史や技法や工程や作品がまず見たいのに、それをすっ飛ばし>>続きを読む
音と言葉のジャングルに迷い込んだみたい。緻密に計算され作り込まれているのに、その枠からはみ出さんばかりのとてつもない熱量に飲み込まれる。都会的かつ野生的で、聡明でスマートな獣たちが織りなす極上のセッシ>>続きを読む
私は愛されている、大切にされている、尊重されている、と日常的に感じられる事が子供の成長にどれほど重要なのかを、丁寧に繊細に描いている。「貴方には守られるべき価値がある」ということを、実感を伴って伝える>>続きを読む
痛いくらい研ぎ澄まされている。真冬の冷え切った空気の中で、身体の表面は凍えながらも体内からの熱を感じて、皮膚一枚隔てた自分の内側と外側との輪郭がクリアになるような感覚。ベラが何物にも囚われず自己を獲得>>続きを読む
時に信仰を持つ者(ジャンヌ)と持たざる者(私)の間には、生きた時代や境遇や経験や意識の違いよりも、遥かに深い川が流れているように思う。私にはジャンヌの気持ちが一欠片もわからなかった。身体中の水分がなく>>続きを読む
冒頭のダンスホールで独り取り残されるシーンから身につまされて、イリスに肩入れするしかなくなってしまう。ショッキングピンクのヘアゴムが、金銭的にも世間体的にも着飾る事を許さない同居人(継父で良いのかな?>>続きを読む
想像の5倍くらいハードボイルドでびっくりした。冒頭からシリアススタートな人生がどんどん悪い方に転がり落ちてゆくのに、愛と可笑しみを添えることを忘れないし、カウリスマキテンポで淡々と進むので起こっている>>続きを読む
冒頭でVOLVOのゴミ収集車が出て来た瞬間、ラーメンズの『名は体を表す』に脳内がワープしてしまい危なかった。この派手じゃないけど鮮やかな色合いと、隅々までクリーンな映像は初期の頃から変わらないんですね>>続きを読む
煮えたぎった腸の熱が脳にまで到達する。とても静かに。そして怒りと喜びが混濁した涙で頬が熱く濡れる。一体何人の人生を奪い魂を蹂躙したら気が済むのか。映像ではなく淡々と言葉で語られるだけでもこんなに苦しい>>続きを読む
女性を見下げている上に性加害に及ぶような男性は皆、性格が歪んでいて仕事もできなくて社会にも貢献してなくて、家族も大切にしてなくて動物にも好かれなくて、なんなら臭くて不潔で見るからに嫌悪感の塊みたいだっ>>続きを読む
命懸けで撮る映画というものは、こんなにもエネルギーに満ちているのだな。言うまでもなく撮影が過酷過ぎて逃げ出さなかっただけでも偉いのに、恐らくあの灼熱の砂漠に居た全員(ラクダと馬含む)が全身全霊で最高の>>続きを読む
キャスティングがあまりにも仕事をし過ぎていて、脚本とか演出も素敵なところが沢山あるのに何も言及する気になれない。別にのんちゃんがだんだんさかなクンに見えてくる訳でもなく、のんちゃんは徹頭徹尾のびのびの>>続きを読む
ここまで全くブレずに、物語の起伏や感動の質量がセオリーという名のレールの上をきっちり通過して行くのを見ると、衝撃的な展開とか冴え渡った演出とはまた違った感動を覚える。私が映画を監督できるチャンスが巡っ>>続きを読む
父親が娘と結婚したがっててめちゃくちゃ気持ち悪い。でもそれがふんわりと「ちょっと頭のおかしな人ね★」くらいの温度感で進むので倫理観のバグが起きる。しかも娘はあまり嫌悪感を抱いていない(教育されてない)>>続きを読む
マルジェラ本人が歴代のコレクションについて説明してくれるのでとてもわかりやすい。勝手な解釈が入る余地がないので、かなり解像度の高い理路整然としたドキュメンタリーになっていると思う。真っ白で統一されたア>>続きを読む
マロナ。それがあなたの名前。サラ。アナ。9。それもあなたのあなただけの大切な名前。あなたの目で見た世界は、こんなにも鮮やかで自由で透き通っていて、でもその分恐ろしくて冷たくて理不尽でままならないんだね>>続きを読む
宇宙に葬られた棺の中に閉じ込められた時、人は仮初の楽園を拵え、思い出の中で呼吸をし、創作した神を崇め、ひと時の肉欲に溺れ、希望を捏造し、恐怖を呼び起こす者を排除し、正気の者は自ら命を絶つ。地球を何万光>>続きを読む
舞台版を先に見たので物語の骨格は知ってるはずなのに、導入部が長いので前半ちょっと眠くなった。舞台版は演出上やむを得ない部分も多いんだろうけど、かなり物語をミニマムにしてたんだな。こちらの映画版は逆に言>>続きを読む
海辺の古き良き映画館。まだ薄暗い朝、出勤した従業員の女性が次々に灯りを灯して行く。ガラス張りの広い入り口。真鍮製のドアフレーム。褐色の絨毯。中央に八角形のポップコーン売り場。見上げるとレトロなシャンデ>>続きを読む
牛にあと一歩興味が持てないので題材が好みのこちらから見てみたけど、好きになれそうな雰囲気のまま何も響かずに終わってしまった。作品というより自分の残念さに落ち込んで俯きながら帰った。心の平穏を保つ為に衛>>続きを読む
小林先生の狂気と紙一重の信念がしっかり描かれていて良かった。あんなユートピアみたいな学校を作れる人がただの優しい教育者な訳はなく、心に燃え滾る闘志を抱いた革命家なのだと勝手に思っていたから。自ら築き上>>続きを読む
この映画を観る前に海亀のスープやウズラのパイを仕込んでおくことは流石に無理だったけど、これは料理というより信仰心と芸術家として生きることについての映画だった。調理シーンを見る気まんまんだったので前半は>>続きを読む
この映画を観に行く前に家でポトフを作り、帰ったらすぐ食べられるよう仕込んでおくくらいの計画性を今年は持ちたい。お腹が空きました。(孤独のグルメの五郎さんの顔)
まず冒頭に繰り広げられる見事な調理シー>>続きを読む
Tokyo Toilet Museum 〜ナビゲーター役所広司〜の特別番組を観てるみたいだった。これだけ見たら日本って凄く綺麗で穏やかで素敵な国ですね(真顔)。令和の宮沢賢治みたいな生活をされている初>>続きを読む
紙に書いた電話番号のメモを失くしてすれ違う、という彼此20年は見ていない恋の始まりを目撃する。その後待ち伏せを繰り返し何とか再会して、今度は住所を書いたカードを貰いそれを大事そうに財布に入れて、胸ポケ>>続きを読む
動物が全部人力パペットだと聞きつけ、超一流のパペット芸なんて見たいに決まっている、と映画も観てないのに鑑賞。こんなに豊かで厳しい《物語》の為の物語だとは全然想像してなかった。私も動物が出て来る物語が大>>続きを読む
親の都合で大人になる事を急かされた少年の鬱屈と性の目覚めを、瑞々しい映像と乾いた南風に乗せてお届けしている。田舎のおばあちゃん家で子供らしくのびのび暮らしていたダニエルは、高校に上がるタイミングで田舎>>続きを読む
「人生にエンドロールはございません」と言わんばかりに放り出される。命の余韻に浸ることさえ命ある者の特権なのだ。老夫婦の住む家が、誰かが住んでた家をそのまま借りてるのかな?と思うくらい生々しい。もう開か>>続きを読む
一年で一番街に幸せが溢れるクリスマスイヴの日曜日に、独りぼっちで火達磨の車椅子を観て来た私を誰か褒めて欲しい。初見時から6年半、ようやく劇場で鑑賞する夢が叶った。なかなかのクリスマスプレゼントだったと>>続きを読む
フランケンシュタインが怪物(人造人間)の名前だと思ってたくらいには無知の状態で観た。彼に名前はない。まだ、ではなく永久に、ない。名前を与えられる事は存在しても良いと認められる事だ。彼は自らを生み出した>>続きを読む
ミレーの『オフィーリア』が好きでその昔ロンドンまで観に行ったというのに、彼女がハムレットの恋人だという事を本作を観て初めてちゃんと理解した。全てにおいてそうだけど、あまりにぼんやり生きてるので自分の知>>続きを読む
帯広の重要文化財であるレトロな元幼稚園で、無観客の中淡々とセッションしているシンプルな映像(1曲毎にミニMCが入るゆるさ)だけど、窓越しや扉の影からこっそり覗き見している座敷童気分になれるし、ライブや>>続きを読む
電車の中で団鬼六を音読(朗読ではない)されている人を見かけた事があり、ふざけてるにしては小声で淡々とでも熱心に読み耽っていらしたので、なるほどこういった性癖(官能小説を読んでいる自分の姿を公衆の面前で>>続きを読む
完全に『暗殺のオペラ』と間違えて観てしまった。いつまで経っても兎を耳で持つ(※絶対やってはいけません)けしからん奴が出てこないな〜と思ってたらそりゃそうだ。うろ覚えとはいえ、季節も舞台も全然違うのにパ>>続きを読む