優しいアロエさんの映画レビュー・感想・評価 - 3ページ目

優しいアロエ

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少女ムシェット(1967年製作の映画)

4.0

〈性別が分かつ非情な世界の救い道〉

 『ジャンヌ・ダルク裁判』『バルタザールどこへ行く』『少女ムシェット』と、ロベール・ブレッソンはどこか死を救済として描いている淵がある。「能動的な死」か「受動的な
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ジャンヌ・ダルク裁判(1962年製作の映画)

4.1

〈会話と足元で構築するジャンヌ・ダルクの最期〉

 ジャンヌ・ダルクにまつわる希少な記録とされるルアンの裁判台帳を叩き台にしたロベール・ブレッソン作品。

 『抵抗』『スリ』を経たブレッソンは、本作で
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タイラー・レイク -命の奪還-(2020年製作の映画)

3.5

〈人混みと砂埃のバングラデシュアクション〉

 無事宇宙を救い終えたMCUの英傑たちが新たにNetflixから繰り出したのは、麻薬組織の抗争に放り込まれた心傷の傭兵の物語。デヴィッド・リーチ同様、スタ
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ヴァスト・オブ・ナイト(2019年製作の映画)

4.2

〈科学と不可思議の狭間への耽溺〉

 1950年代SF映画やテレビドラマに敬意を捧げつつ、当時も確かに棲息したらしいオタク学生特有の手のつけられない疾走感で魅せるインディー映画版『未知との遭遇』。20
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彼岸花(1958年製作の映画)

3.8

「いやぁ、別にどこか気に入らないわけでもないんだけどねぇ」

 京都弁が心地いい小津初のカラー作品。3人の若い女と各家庭をとおして、「紀子三部作」に扱ったさまざまな結婚観を拡張した作品である。

 モ
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お早よう(1959年製作の映画)

4.6

〈時代の中庸へと足を踏み出す小津晩年の傑作〉

 まずい。小津を適度に摂らなければ生きていけない体になってしまった。そんなことをいつか言ってみたかったのだが、本当にそうなりつつあるから困る。U-NEX
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カイロの紫のバラ(1985年製作の映画)

3.6

〈それでも私には映画がある...いつまでも懲りぬ刹那の幻想〉

 ハリウッド黄金期へと思い馳せ、虚構への耽溺を肯定してみせるウディ・アレンのシネフィル賛歌。いや、空想賛歌。本作は映画ファンのための映画
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ハンナとその姉妹(1986年製作の映画)

4.0

〈人生は無意味である...人々の物語と個人の苦悶が織りなす慎しきブーケ〉

 落伍者気分のスノッブ男子を自ら演じ、「ぼくの言い訳わかってよ」と御託を並べる『アニー・ホール』『マンハッタン』から一転、ウ
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マンハッタン(1979年製作の映画)

4.3

〈ニューヨークの魅力を閉じ込めたモノクロの世界〉

 『アニー・ホール』のブルックリンから北に少し歩いて『マンハッタン』へ。

 「観る旅行誌」ことウディ・アレン作品は、オープニングから街の多彩な表情
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ブルージャスミン(2013年製作の映画)

3.8

【過去鑑賞作品 82】

 ケイト・ブランシェット持ち前のセレブリティの貫禄を崩してみせたニューロティックコメディ。『エリザベス』『ロード・オブ・ザ・リング』『アビエイター』とこれまで培ってきた役柄あ
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アニー・ホール(1977年製作の映画)

4.2

【過去鑑賞作品 81】

〈NYの都会に棲息するキモ男の恋愛哲学漫談〉

 『真夜中のカーボーイ』『タクシードライバー』と同時代とは思えない小ざっぱりとしたニューヨーク・ブルックリンの都会で、恋に芸術
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麦秋(1951年製作の映画)

4.5

〈ひとりの葛藤が遠回しに伝播する大家族の肖像〉

 原節子がデヴィッド・リンチに似ていると思うのは私だけだろうか。当時からハーフっぽいとは云われていたようだが、私はもうリンチにしか見えなくなってきた。
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晩春(1949年製作の映画)

4.3

「お嫁に行ったって、これ以上の幸せがあるとは思えないの」

 嫁入りを理想とする戦後初期の価値観や、人間たちがそこに疑問を抱かずにいるさまはいま観るとむず痒いが、そのなかで彼らなりに葛藤を抱え、健気に
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東京物語(1953年製作の映画)

4.8

〈和風建築を味わいつくす空間魔術と、リズムと見得切りの織りなす快楽〉

 映画ファン歴も3年目に入り、これが私にとっての小津初二郎である。いままで食指の伸びなかった監督のひとりだが、『コロンバス』のコ
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ふたりのベロニカ(1991年製作の映画)

4.6

〈死の予感とそれを紛らす緑への耽溺〉

 濃厚な死の気配をごまかすように耽美な色合いで世界を覆った魔性の映画。パリとポーランドに暮らす鏡写しの女性を描いた『複製された男』を思わせる物語だ。

 映像ス
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トリコロール/赤の愛(1994年製作の映画)

4.2

〈淡く仄めく赤の世界と、人間どうしの微かなつながり〉

 人間たちの思わぬ結びつきを提示することで、悲しみに暮れる人も怒っている人もまるごと包みこんでしまう。これは映画に与えられた特権なのだとつくづく
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トリコロール/白の愛(1994年製作の映画)

4.1

〈白の残った雪どけのポーランド〉

 人工的な色彩が映えた『トリコロール/青の愛』『赤の愛』とは趣を異にし、消え残った雪と寒空のもたらす自然な色合いがぼんやりと広がるのが、この『トリコロール/白の愛』
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トリコロール/青の愛(1993年製作の映画)

4.8

〈青に染まった失意の世界と、“愛からの自由”〉

 フランス国旗の〈自由・平等・博愛〉に準えた「トリコロール三部作」は、仏政府の依頼により、ポーランド人監督K・キエシロフスキの手によって放たれた。「青
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リアリティのダンス(2013年製作の映画)

3.8

「過去との決別を感じても、心の中にはまだ少年がいる」

 80歳を超えたホドロフスキーが自身の生い立ちと向き合い、清めていくフィルモグラフィー新章。『エンドレス・ポエトリー』と二部作を形成し、こちらは
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はちどり(2018年製作の映画)

4.1

〈限界間近の韓国社会で、少女はのた打つ〉

 ソウル五輪後の飛躍的な経済成長の裏に潜む、家父長性や弱者へのしわ寄せ。そしてついに象徴的な崩落を迎えた94年の悲劇を負の遺産として呼び起こしつつ、それをあ
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ホドロフスキーのサイコマジック(2019年製作の映画)

3.6

〈自己のセラピーから他者のセラピーへ〉

 カルトの帝王は、本当にカルト教団の教祖のようなことをやっていた!

 サイコマジックとは、「科学」ではなく「芸術」による救済を信条とする心理療法だ。「母乳に
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マザーレス・ブルックリン(2019年製作の映画)

4.0

〈Forget it, Lionel, it’s Brooklyn.〉

 50年代のニューヨークを復元し、孤独な私立探偵と腐敗した社会組織の対峙を描いた『チャイナタウン』系統の硬派なフィルムノワール
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37セカンズ(2019年製作の映画)

4.2

〈いったいなにが「不自由」か〉

 障害者と健常者のあいだで食いちがう、“保護”と“過保護”の境界線。障害者の生活を合理的に補助することが必ずしも正しいわけではないようだ。「不自由」を解消してやろうと
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ペイン・アンド・グローリー(2019年製作の映画)

3.4

〈アルモドバルの自分語りとは相性が悪いようだ〉

 これはダメモドバルだった。
『バッド・エデュケーション』『抱擁のかけら』と、これまでもアルモドバルは自身の作家人生の苦悩を、ゲイや神学校といったパー
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エンドレス・ポエトリー(2016年製作の映画)

3.8

「父さん、あなたは何も与えないことですべてをくれた」

 少年期から芸術家黎明期、そしてパリへの旅立ちまでを描いたアレハンドロ・ホドロフスキーの私小説的作品。

 両親との確執や降りかかる逆境を「人生
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ホドロフスキーのDUNE(2013年製作の映画)

4.2

「大惑星DUNEは地球に至近距離まで近づいて、素晴らしい種を撒いていった」
 
 アーティストに好かれ、ハリウッドに嫌われた男ホドロフスキー。彼の志した未完の大作は、人として、発想として、いまも映画史
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サンタ・サングレ/聖なる血(1989年製作の映画)

4.4

〈ホドロフスキーの精神治療はノーマン・ベイツをも救いだす〉

 混沌に満ちた世界でセラピーを施すホドロフスキーの作家性が、ヒッチコック『サイコ』と血の契約を結ぶことで極上のエンターテインメントへと昇華
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ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから(2020年製作の映画)

3.2

〈文通の醍醐味をこちらにも分けてくれよ〉

 学生青春映画については『エイス・グレード』『アメリカン・スリープオーバー』で心を開きはじめ、『はちどり』で死亡予定の私だが、生憎この作品はいただけなかった
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ホーリー・マウンテン(1973年製作の映画)

3.8

〈最後はちゃんと帰してくれる、ホドロフスキーのサイケな精神修行〉

 『エル・トポ』同様、愚者(フール)な人間が象徴的な死を遂げ、ホドロフスキー流「精神と時の部屋」で再生に至る物語。『ミッドサマー』『
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エル・トポ(1970年製作の映画)

4.3

〈暴力と欺瞞に満ち溢れたキッチュな西部劇〉
 
 モグラの名を冠したさすらいのガンマン〈エル・トポ〉は、崇高な精神と平和をもとめて悪を成敗している。彼は右腰のホルスターが後ろから映されることで『夕陽の
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ザ・ファイブ・ブラッズ(2020年製作の映画)

4.0

〈黒人への両義的見解を提起する黄金の冒険譚〉

 続編公開を控える『ランボー』に軽くジャブを浴びせつつ、ベトナム戦争の「加害者」であり「被害者」でもある黒人帰還兵へと切り込んでいくスパイク・リーの新作
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エルミタージュ幻想(2002年製作の映画)

4.0

〈突如蘇生された時代が現代と織りなす一筋の迷宮〉

 世界三大美術館の一角に数えられるロシアのエルミタージュ美術館。時代の断片を凝縮したその空間で、生きた時代が目を覚ます。 過去と現代が行儀よく交錯す
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ファイナル・カット(2012年製作の映画)

4.4

〈シネフィル監督たちの道楽がいよいよ「目的」に〉

 『アメリカン・ビューティー』『羅生門』がフルタイム稼働し、『2001年:宇宙の旅』が美味しいところを持っていく〈カラーとモノクロ〉〈実写とアニメ〉
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許された子どもたち(2019年製作の映画)

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〈“許されてしまった”子どもたち〉

[あらすじ]
 河川敷でクラスメイトを殺めてしまうも、不処分判決となった中学生キラとその両親の爾後を追う。
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 キラは法的に“許されてしまった”こと
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クルックリン(1994年製作の映画)

3.8

〈リー一家の喧騒メモワール〉

 4人兄妹で育ったスパイク・リーの少年時代をなぜか5人兄妹で描いた回顧録。脚本にも携わった妹の目線から描かれる。〈ジャズミュージシャンの父親、教師の母親〉という設定もリ
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25時(2002年製作の映画)

4.0

〈ゼロ年代初頭の倦怠に満ちたニューヨーク〉

 2002年、スパイク・リーが9.11後のニューヨークを切り取る。ワールド・トレード・センターの跡地、追悼の意を込めて夜空に放たれる2本の青白い光、ウサマ
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