ちこちゃん

オッペンハイマーのちこちゃんのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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やっと観ることができました
クリストファー•ノーラン監督脚本の原爆の父ロバート・オッペンハイマーの伝記です

「映画」としては、音の使い方、特に民衆の不安を靴音で鳴らすことや良心の呵責への脅威、また画としては爆弾の光の取り方、トリニティ実験の緊張感など、やはり素晴らしいものがありました
明らかに劇場案件の映画です

そして、人物描写も多面的であり、人間としてのオッペンハイマーの捉え方も素晴らしいとおもいました。オッペンハイマーの負の部分やだらしない部分を描くことで、人物造形が深くなっています。また、彼がユダヤ人であるという出自がナチスよりも早く核爆弾をつくるという強い使命感に繋がったことも良く描けていました
ストーリーとしても良くできており、アインシュタインとの会話の回収の仕方もさすがです

研究者の性だと思うのですが、未知なことを明らかにしたいという欲求は、作家が物語を書きたいと思うことや、ピアニストがピアノを弾き続けていたいと思うような、抗えない天から降りてくる欲求なのかもしれません。その後に何が待っているのか、そこを考えられず、24時間自分の研究に思考を埋没させることができる人が研究における天才なのかもしれません

「映画」として素晴らしいと思うものの、やはり日本人としての私のアイデンティティがこの映画を映画としてだけで捉えることをさせてはくれませんでした
広島、長崎で原爆の犠牲となられた方、後遺症と闘う方々がいる事実が原爆の開発自体を許せないものと考えます
そして、兵器に転用可能な技術や研究による知識を得るような研究をしないことが、研究者である前に人間としての倫理観が重要ではないかとも思います
トリニティ実験の成功を祝う高揚感いっぱいのシーンを観ながら、手段が目的化してしまう人間の愚かさから人間は逃れられないのか、と思った次第です
また、国の決定も1人の人間のエゴから生まれることがあり、権力の暴走を許さない国民の姿勢も重要であると思いました。

そして、オッペンハイマーが発明した時はアメリカのみが核保有国であったものが、今や複数の国が複数の核を所有しており、核や軍備を十分に持つことが抑止力になるという論理は破綻しているように思われます
そうした中で、軍備増強や兵器開発に血道を上げる日本の現状を憂うばかりです
力で力を抑え込めるのか。我々は歴史から学ぶ必要があるのではないかと思いました

映画として評価することには抵抗があるので、点数は無しとしました
ただ、日本の方々には観てほしい映画だとおもいます
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