Violet

オッペンハイマーのVioletのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

プロメテウスは人類に「火」を与え、
オッペンハイマーは人類に「原爆」を与えた。
映画の半分はオッペンハイマーの視点から描かれるため、彼が原爆を作らなければならなかった状況や、彼が科学者として原爆を完成させたいという欲に抗えなかった心のうちがうかがえた。その後、原爆の被害を目の当たりにし、彼が原爆をつくったことに対してある種後悔のような想いを抱いていたというのは知らなかった。

「原爆をつくることで抑止力になる」なんてことが言われていたけれど、原爆があっても抑止力なんかにはならなかった。
戦争は終わらないし、
もっとおそろしい兵器が開発されているだけ。

そう考えると、オッペンハイマーが人類に「原爆」を与えてしまったことはやはり間違いだったのではないと思う。
あんな悲惨な結末が待っていることを、ただの爆弾じゃないことを、原爆を落とす前になんで教えてくれなかったの。
知識のないものたちに〈未知の兵器〉を与えてしまうことの恐ろしさを感じた。

▽カラーとモノクロ
最初は、モノクロが過去で、カラーがその後だと思って見ていました。
が、実際はカラーがオッペンハイマーの視点でどちらかというと過去の、モノクロがストローズ視点でその後の展開についてのシーンでした。

▽天才の追放
オッペンハイマーはのちに、水素爆弾の開発に異を唱えたことが起因して「赤狩り」の対象となり、公職から追放された。
今のコンピュータの基礎を築いた天才数学者Alan Turingも、同性愛者であるという理由でわいせつ罪で有罪となり、数学者として生き続けることができなくなった。
いつの時代も、天才たちが追放されてしまう理由は本当によくわからないものだらけだと思う。

▽監督が「今」この映画を撮ったわけ
ノーラン監督は次のように語っています:
10代の息子は私に『僕たちの世代では(核兵器に)あまり関心がない。気候変動に比べると核兵器は大きな関心事ではない』と言いました。
衝撃でした。核兵器に対する私たちの意識や恐怖心は地政学的な状況によって変化します。変化することを常に意識し、懸念すべきなのです
映画を見ることで、核兵器の絶え間ない脅威について、若い人たちにも思い起こさせ、関心を持ってもらえたらと思います

ノーラン監督は、時代がすすむにつれて核に対する恐怖を抱かなくなった若者に向けて、核兵器の恐ろしさを伝えたかったのだ。
ノーラン監督の望み通り、この映画を見た大半の人は核兵器に対して恐怖心を抱いただろう。これまで核兵器に興味がなかった若者であれば尚更だ。

本作がきっかけで改めて核兵器に注目が集まった今、世界唯一の被爆国である日本人が核軍縮・不拡散について声をあげることに意味があるのではないかと思う。
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