KnightsofOdessa

TASTE テイストのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

TASTE テイスト(2021年製作の映画)
3.0
[原始的で無機質なユートピアの創造] 60点

2021年ベルリン映画祭エンカウンターズ部門選出作品。ナイジェリア人のサッカー選手の男は、9歳の息子を残してサイゴンに渡るが、足を骨折したせいで戦力外通告されてしまい、今は床屋で働きながらスラムのような場所で四人のベトナム人女性と共に暮らしている。なぜかは明かされないが、四人の女たちにはそれぞれ暗い過去があり、流れ着くように現在地へと辿り着いたようだ。恐ろしく静かな映画で、まるで監獄のような無機質なコンクリートの部屋の中を往来しながら、誰も言葉を発さずに淡々と生活を続けていく。ツァイ・ミンリャンとペドロ・コスタのマリアージュと言ったところか?当初、男は床屋で、女たちは裁縫工場で働いていたが、突然古い要塞のような建物に移住し、全裸で生活を始めるのが強烈。全裸で食事を作り、全裸で皿を囲んで、全裸でカラオケをして、全裸でセックスする二人の横で残り三人の全裸の女たちが別のことをする。どのシーンでもほとんど誰も言葉を発さず、蒸した丸鶏から肉を剥く音、頭皮を揉む音、トウモロコシを食べる音、喘ぎ声などが何もない空間で反響しているのが妙に官能的。その空間では互いの肌の色とコンクリートの色以外余計な色が一切存在せず、その停滞した空気から時間が止まっているかのような印象を受ける。彼らの生活はどこまでも原始的で神秘的に撮られている。後半になると一つの目的に使用されていた部屋が連結された状態で空間が拡張されたり、二つ以上の目的で使用されるなど映像的/精神的な広がりを見せていく。

また、ナイジェリア人サッカー選手の招待とその体力測定等の行為を奴隷売買のように見せたり、外国人とベトナム人女性とのセックスをベトナム戦争中の慰安婦と重ねたりという政治的な意味もあるらしいが、そんなことよりも握りしめたペニスに向かってペニスの思い出話を語ったり、ペニスにかたつむりを乗せて眺めたりしているシーンが強烈だった。強烈だったけど、模倣の域は出ないかな。

※ただの予想だがフィルメックスとかに来そう。
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