叡福寺清子

ルッツ 海に生きる/ルッツの叡福寺清子のレビュー・感想・評価

3.2
ルッツ.それはマルタ島の伝統的漁船.舳先に描かれる目はオシリスの目,またはホルスの目が由来とも言われ,いずれにあっても漁民を災難から護るお守りの役割がございます.本作は,今では少数になったルッツでの漁法を続ける1人の男の物語です.視聴するまで,主人公の名前がルッツと思っていた三遊亭呼延灼です.こんばんわ.

伝統漁法を寡黙に続ける男の生き様は平坦ではありません.近代船に比べて漁獲量は少ないし,卸市場では買い叩かれるし,一人息子は成長不順で治療が必要だし,なにより曽祖父の代から受け継くルッツは老朽化が著しいし.けっこう人生どん詰まり.加えて一言多い男の性分(私からしても,そんな事言わんでもえぇのに,とツッコミそうになりました)が災いして,裕福な嫁の母親とは疎遠になりがちで,やっぱり人生どん詰まり.
背に腹はかえられぬと,卸市場の長の小狡い小商いを手伝います.お金は手にしますが,正しくない行いと自覚しているのか男の心はスッキリしません.作品の全編を通して,男はわだかまり続けます.何をするにしても「これでいいのか」という迷いや諦めきれない心持ちが,ずっと男の後を付いてまわります.人生最大の決断をした後でさえも.

でも人生ってそういうもんじゃないでしょうか.全ての決断に対して自信を持っている人なんてそんなにいないでしょう.いたら,たぶん頭おかしい人です.男の姿を通して,視聴者は自分の人生を見つめ直しています・・・って言うと多少大げさですが,男が振るった竿の先になにがあったのか,ちょっと考えてしまった呼延灼でございました.合掌.