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沈黙のパレードのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

沈黙のパレード(2022年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

決して悪くはないのだが、前二作があまりに好きだったので、期待値が上がりすぎてしまったのかもしれない。これまでほど心を揺さぶられることはなかった。

まずは何よりも草薙役の北村一輝の熱演について触れたい。素晴らしかった。正直、話としては非常に地味で特に見せ場らしい見せ場もないこの映画で、彼の演技だけが場面に濃淡を付けていたと思う。ただ、話の内容や演出が今ひとつ彼の熱量に追いついていないように感じた。ということは北村一輝がやり過ぎだっただけか…?

これはかなり意外だったのだが、飯尾和樹が実に良かった。正直観る前は「こんな重要な役にお笑い芸人を使うなよ」とゲンナリしていたのだが、実際には俳優を食う勢いで存在感があり、寡黙な役ながらしっかりと表情や仕草で感情を表現しきっていた。福山雅治より上手かったとすら思う。あとは下衆な男性である蓮沼役の村上淳も本当に良かった。酒向芳は相変わらず文句無し。

物語としては良くできており、かなり多い登場人物を個性派キャストを起用したりして見事にさばいていた。ただあまり存在意義が感じられないキャラクターも多く、おそらく原作を大幅に削らざるを得なかった弊害なのだろうと思う(原作は未読)。それでも各々の苦悩の感情はよく伝わってきたし、頑張ってはいた。

中盤までは本当に心が苦しく、真相が気になって目が離せなかった。(正直気になるところもなくはなかったが。完黙だとしても物証があるあの状況で釈放されるのはおかしすぎる。)ところが終盤明かされた真相はやや肩透かしであり、前作までのような重みのあるものではなかった。ここまで引っ張ってきてそんな感じの終わり方か、と少し置いてきぼりな気持ちにもなってしまった。特に飯尾和樹演じる父親に感情移入してしまっていたため、完全に蚊帳の外で終わってしまうラストには寂しさすら覚えた。時間の都合でしょうがないのだとは思うが、真犯人たちの描き込みが浅いため、急すぎて気持ちがついていかない。

ひっかかるのが、湯川が「蓮沼は自分が犯人ではないことを知っているから完黙できた」と言った直後に「真犯人は蓮沼だった」という説を持ち出してきていること。矛盾が過ぎる。大体蓮沼が殺しているなら、死体損壊の時効だけを待って死体を発見させるのはどう考えても上手くない。死体は隠したまま脅すか、いっそトンズラしてしまえば良かったのだ。蓮沼が物証を保管してた理由も意味がわからないし、バレッタに血が付いていなかったからって出血がなかったと決めるのは無理がある。

あとラストで草薙が「必ず証明してみせます」と犯人に言うのも無責任だなぁというか何も学んでないのかお前は感があってちょっと残念。「あなたが沈黙をやめれば奥さんは嘘をつく必要がなくなる」という発言も、イコール"奥さんが裁かれる"わけだからフェアではなく、警察の利益のために言っているようにすら見えてしまう。

とはいえ東野圭吾らしいしっかりとしたプロットをきちんと映像化しており、全然悪くはない作品なのは間違いない。
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