針

アリスとテレスのまぼろし工場の針のレビュー・感想・評価

3.8
謎の爆発事故によって根本的に在り方が変わってしまった田舎の町を舞台に繰り広げられる、ファンタジックな恋愛青春アニメ。といってもそんな明るいもんじゃなく、わりと重めのトーンの映画です。

夜空に走る水色のひび割れ、ライトアップされた工場の夜景、寂れた町をいろんな角度から切り取ったカット等々、画面の美麗さには恐れ入りました。特にこのアニメは「錆び」が執拗に描かれていて、このへんがストーリーの閉塞感と相まっていい感じの雰囲気を醸し出してるなーと。廃墟好きとか、海浜の工業地帯をライトアップした写真とかが好きな人はこれも好きだと思う。

しかし自分が一番良かったところは、思春期に誰もが抱くであろう異性に対する期待と興味とグジグジイライラする感じ、そしてその帰結を、男女双方の視点からものすごくまともにぶつけて来たところです。まぁあけすけに言えば性的欲求ってことなんだけど、それを下品にはなりすぎず、かつ誰にでも当然あるべきものとして描いてるところがステキで、大画面でこれを見させられるのはちょっと衝撃的かつ感動的でもありました。この一点だけでも自分は観に行ってよかったなーと。

このへんは岡田麿里という作家の特色らしいのですが、自分は彼女の関わった作品をちょっとしか観てないしあまりそのへんは考えてなかったのもあって、とても面白く感じました。(ちなみに通して観たことあるのは『あの花』、『鉄血のオルフェンズ』、
『selector infected WIXOSS』&『selector spread WIXOSS』ぐらい。漫画の『荒ぶる季節の乙女どもよ。』は最初だけ読みましたが最近のやつをまだ観てないのです……)

その一方、ファンタジーSFのアイデアメインで考えると、どういう仕組みなんだろう? という疑問が解けないところも多くてやや微妙かも。あとは町の人たちの状況の変化がちょっと目まぐるしかったり、終盤のアクションがちょっと駆け足になってたり。
それと作中に登場する宮司役の人のテンションがおかしくて、これはいったいなんなんだろうと思ったりもしました(笑)。
正直自分的にはそこまで密な構成じゃない気はします。描こうとしてる構図がメタファーになりきらずわりとそのまま出てる感じもちょっとしたかなー。

テーマ的には変わることを肯定しつつも成長することへの決別感みたいなものもあって、そのへんはちょっと難しい。メタ的なことを考えると、「おれ(たち)はちょっとずつ色を変えつつ、これからも思春期のウジウジ感にこだわり続けるぞ」という作り手の決意表明でもあるのかも。でもこれはあくまで自分の勝手な推量……。

あとは後半の恋愛模様には、気持ちは分からなくもないけどちょっと異常なものを感じたりもしましたねー。でもそこが一番印象的だったり。

しかし逃げも隠れもしないセカイ系で、視聴後は不思議と爽やかな気持ちになりました(自分だけ?)。気になる部分もけっこうあるのですが、好きか嫌いかで言えば自分は好き!

(あと冒頭のスタッフ紹介が、黒バックに白い字で無造作に縦書きで並べる古めかしいスタイルで、あれは何かのオマージュなのかな。)
針