逃げるし恥だし役立たず

べイビーわるきゅーれの逃げるし恥だし役立たずのレビュー・感想・評価

べイビーわるきゅーれ(2021年製作の映画)
3.0
女子高校生の殺し屋二人組は、高校卒業を機に表向きは普通の社会人として振る舞わなければならず、社会に馴染もうと悪戦苦闘する。社会に適合できない女子高生殺し屋コンビを主人公にした異色青春バイオレンスアクション。
高校卒業を目前に控えた女子高生殺し屋二人組の杉本ちさと(髙石あかり)と深川まひろ(伊澤彩織)。組織に委託された人殺し以外、何もしてこなかった彼女たちは、高校を卒業したらオモテの顔として社会人をしなければならない現実を前に、途方に暮れていた。社会に適合しなければならず、公共料金の支払いや年金や税金、バイトなど、社会の公的業務や人間関係、そして理不尽さに揉まれる二人。組織からはルームシェアを命じられ、他者とコミュニケーションを取るのが苦手な深川まひろは、卒無くバイトをこなす杉本ちさとに嫉妬。二人の仲は次第に険悪になってしまう。それでも殺し屋の仕事は忙しく、更には或る任務でヤクザから恨みを買って厄介事に巻き込まれる…
インディーズ映画で制作日数はなんと六日と半日あまり、『ジョン・ウィック:コンセクエンス(2023年)』でもスタントパフォーマーを務める伊澤彩織と、舞台版『鬼滅の刃』の竈門禰豆子役の高石あかりの二人が主演の、「殺し屋と暮らし」をテーマにした女子二人組殺し屋青春映画、二人にとって殺し屋よりもはるかに難しい社会人になろう系映画と謂った所だろう。
極端に不器用な深川まひろ(伊澤彩織)と器用貧乏な杉本ちさと(髙石あかり)のキャラクターの書き分けも秀逸であり、日常の緩い会話劇や脱力した遣り取りなどの何気ない日常描写や、驚異的なアクション演出の一方で、食べ物をこぼしたり、ゲームのコードをひっかけたりといった日常シーンも面白く、悪役にも其れなりの魅力があって、ラストに向けた盛り上がりも悪くない。アクション映画では置き去りにされがちの人物描写やストーリー性を兼ね備えた映画であり、社会人生活の日常パートと殺し屋稼業のアクションパートの緩急のバランスが絶妙で、意図的に前者に重きを置くことにより、気軽に観ることが出来て、適度に気が利いている。
浜岡一平(本宮泰風)と浜岡かずき(うえきやサトシ)のメイド喫茶は狙い過ぎた感はあったが、浜岡ひまり(秋谷百音)と渡部(三元雅芸)達とのクライマックスは勝敗が見えて死闘とも云えないレベルなのが残念であり、物語が進むにつれて、冗漫になってくるのは此の種のアクション映画では仕方のないところだが、時間軸を解体して時制を往来したり、現実に空想を重ね合わせたりして観せるが、下手な外連味やツイストなど無くても観客は付いてくる筈である。
日本映画でこうしたアクション作品は、下手なVシネマ風作品に堕してしまう危険を十二分に孕んでいるが、ちゃんと映画作品として成立しており、オリジナル脚本に、迫力ある殺陣、独特な会話のテンポや間、95分と短い時間だが内容は抜けがなく、現在このような傑作でも何でもない"普通"に面白い映画に出会える喜びは事の他大きい。
Vシネマ擬きやサブカル狙いなんて茶化してはいけませぬ!御客人、楽しませる事は間違い御座いません。喰わず嫌いはタコの酢、さあさあ奥の方へ、ごゆるりと楽しんでいっておくんなせぇ…